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□Not able to return a debt
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もとから顔色が優れなかった少女が、目前で倒れた。
…自分もかなり消耗していたらしい。
ほんの数メートル先の少女が、ふらりと倒れる瞬間を見ておきながら、足を動かすことができなかった。
大丈夫か、と少女の周りに群れる草食動物たちを見て、自分がしようとしていたことの愚かさに気付く。
(僕には関係ない)
指輪がどうたら言っていた戦いの時に、見かけた少女。
一番咬み殺してやりたい男を連想させる風貌が一瞬目を引いたが、あの男の持つ禍々さが全く見受けられなかったから、特に接触することもなかった。
しかし、苦しそうに吐血した少女が目に映ったとき、自分の中で思いがけず葛藤が始まる。
弱者に差し伸べる手など、自分は持ち合わせていない。
自分の手は、強者を咬み殺す為にあるのだ。
勝手に動き出しそうな足に、力が入る。
そもそも、今草食動物達に囲まれた彼女に足を向けるということがどういうことかわかっているのか。
今この状況で、彼女をどうこう出来る人間は、1人もいないだろう。それは自分も同じ区切りに入らなければならないことだと諒解している。