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□Everyday collapse
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「う゛お゛ぉぃ」
俺の腰にべったりくっついて離れようとしねぇ、世界でただ1人俺が心から愛しいと思う、女。
背中に回る手を、俺がほどけないとわかってやっているのか。
…もう行かなければ、任務の前に自らの主君の手によって殉職することになるかもしれない。
(ほんの少しでけぇ任務のたびにこれだ)
…そんな彼女を、この状態に陥るたびにかわいい、愛おしい、と思うのも事実なのだけれど。
「そろそろ離せぇ」
彼女の頭の房部分から、ゆっくりと艶やかな藍色を梳く。
離したくない、離れたくない。
そういう気持ちはもちろんある。
けれど、そんな思いを押し込めて、任務に向かう。自分を待っているものがいるというのはそれなりに気が引き締まるし、なにより彼女に早く会いたい、という気持ちが手伝って自分は任務を遂行出来ているのだ。
ようやく顔をあげたクロームの頬に、黒の皮の手袋を着けた手を添える。
「行ってくるぜぇ」
そのままクロームの唇に口付けて、前回もこんな感じだったな、と頭の片隅で思う。
「…気をつけてね」
そして、最後は柔らかい笑顔でコイツが俺に手を振るのも、もういつものことだった。