book
□Don't say a sad thing
1ページ/2ページ
珍しく徒歩で隣町近くを歩いていた雲雀は、小さな歩道橋に佇む1人の少女に目を奪われた。
愁うような表情で歩道橋の真ん中あたりの格子に寄りかかり、川の流れを見下ろす少女。
「凪」
何してるの、こんなところで。
格子を握る彼女の手は冷たくて、長い時間外にいたのではないかと雲雀は不安になった。
「川を、見てたの」
…知ってる。
「あそこに私が落ちたら、誰か悲しんでくれるかな、って考えてた」
雲雀は目を見開いた。
「飛び降りる気は全然なかったんだけど、なんとなく」
でも、
「私の頭の中では、誰も悲しんでくれなかったの」
ドクン、という音が合図だったのか。
雲雀は言いようのない感情に支配された。
誰も悲しまない、なんてことはない。
彼女の気に食わない主君や連れ、あの草食動物たちの群れ。自分だって、もし彼女が、と思っただけで…
しかし、自分の言葉でそれを彼女に伝えきれるだろうか。
自分の喉元までこみ上げたすべての言葉がちゃちに思えて、雲雀は強く彼女を抱き締めた。
(言わないで、そんな、悲しいこと)