拍手ありがとうございます!

お礼文。
配布者/有栖様
配布元/xxx-titles
よりお借りした、
青春してみる10のお題。

※文字数の都合により、2ページまで続きます

 光星学園の高等部生徒には、夏休みに入る前に、乗り越えなければならないものが二つあります。
 一つは期末テスト。これはもう鉄則です。学生生活には、残念ながら外せません。
 そしてもう一つは、終業式間際に行われるイベント、そう、球技大会です。

04.汗を流せ、涙も流せ。

 体育館に、鋭いホイッスルが響きます。次いで体育館を震わすのは、つんざくような歓声。大半は女子のものです。無論、男子も勝利の雄叫びを上げたりしているのですが、女子の甲高い声に、それらは負けてしまうのです。
 そんな、盛り上がりも最高潮を迎える、球技大会最終日。

「嫌だなー。ドッヂボールなんかしたくない。てかダルい。帰りたい。」

 球技大会の熱気も何のその、上谷聖はそんな冷めた意見を吐き出しました。
 普通に盛り上がっているクラスメートには反感を買いそうな意見でしたが、幸いにも、彼の呟きを聞いているのは、優喜だけです。

「そんな事言わずに楽しもうよ。ね?」

「そりゃあ、楽しめるもんなら楽しみたいよ。だけど、そうさせてくれない人ばっかりだからさ。」

そう言って聖は、少し離れた位置にいる大柄な男子生徒数名を睨みつけました。体育着に入ったラインの色から、彼らが上級生だとわかります。
 彼らは、執拗に聖に悪意を飛ばしてくる連中でした。
 最初に絡まれたのは、高等部に入学した直後でした。特異な髪色が、彼らの癪に障ったのでしょう。それ以来、彼らには事あるごとに聖に絡んできたのです。特に行事の時はボロクソに言われる為、聖は行事が嫌いでした。

「次の試合、アイツらのクラスとだろ?やんなっちゃうな。今回は何言われるか。」

「気にしない方がいいよ。あの人達、ただ絡みたいだけなんだから。高校生のクセに、やる事が幼すぎるんだよね。」

「うーん……。」

当然と言えば当然なのですが、聖は乗り気ではなさそうに、そう返事を返しました。
 しかし、どんなに嫌がっても、試合の時間はやってきます。クラスメートに呼ばれ、聖と優喜はしぶしぶコートに向かいました。


 「うわ、またキモいのいるし。」

「ボール触れねぇー!キモいのが移るぞー!」

ラインを挟んだ反対側で、彼らは大きな声で叫びます。聖はそれを聞きながらも、気づかないフリをして、コートの目立たない位置に立っていました。ですが、クラスメートや観衆の目が痛いです。
 体育館にホイッスルが響きます。と、同時に、三つのボールがコートに放り込まれました。ちなみに、女子は二つ、男子は三つのボールを使用します。高校生が本気で投げますから、それなりの迫力がありますし、当たれば痛いです。
 行事が好きな、目立つ生徒や、運動が得意なメンバーが、ラインギリギリまで前に出て、ボールを投げます。一方、聖のように目立ちたくない生徒は、反対側の外野ギリギリのライン間際で、大人しくしていました。
 しかし、目立たないにも関わらず、罵声は容赦なく飛んできます。それだけでなく、勢いをつけたボールは、確かに聖の頭を狙っていました。腹が立ちますし、厄介ですし、クラスメートも何だかやりにくそうです。悪いのは上級生達なのですが、聖も罪悪感に襲われます。
 キモい、目障り、などといった言葉と共に、ボールが飛んできます。冷静を装いながらも、少なからず、その言葉に動揺していると、

「危ない、聖!」

クラスメートか、もしくは観衆の誰かかもしれません。誰かはわかりませんが、そんな声がして、聖はハッと顔を上げました。
 目の前に、ボールがありました。急いで顔を逸らしますが、間に合いませんでした。
 バンッという音がして、聖は右目を押さえました。ボールは、彼の右目を直撃したのです。視界が黒く滲み、チカチカと点滅を繰り返します。
 ボールが床に落ちます。そして、優喜が大丈夫かと問う声と、聖を嘲る笑い声がしました。ちなみに、ボールは顔に当たったので、アウトではありません。

「聖、大丈夫!?」

「大、丈夫。」

目を細めながら答えると、少し遠くから、不快な声がしました。

「ボール当たって泣くとか、女かよ。」

聖は、左目でギッとその生徒を睨みつけました。念のために言っておくと、聖は泣いてはいません。
 怒りで手が震えます。彼は落ちたボールを拾うと、優喜の静止の声も聞かずに、ラインギリギリまで彼らに近づいて、そのボールを投げました。
 ボールは直線を描き、上級生の顔を狙いました。結果として、そのボールは外れたのですが、先輩達を怒らせるには十分でした。
 更に激しくなる暴言。時折三つのボールに顔を狙われ、それでも負けじと聖もボールを投げ返します。
 やりにくそうなクラスメートを後目に、聖はボールを投げ続けました。しかしその口からは、悪口は決して吐き出されませんでした。

続きます→


一言あればここからどうぞ



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ