Chuuu

□ビスケットふたつ
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さあ困った。ヤスくんが今日帰ってくるというのに。



家の中のありとあらゆる化粧品がどこにあっても、私は探せる自信がある。それとか、何百万人の中に放り込まれて、「ここから片岡を見つけ出せ。」と命令されても、一秒で見つけられる自信がある。じゃあなんで、ヤスくんに買ったお土産が見つけられないの!私!



「ヤスくん喜ばせようと思ったのにな…」



もうほんとうに自分を呪いたい。もしかしたら家に帰る途中に落としてしまったのだろうか。可能性が無くはない。なんせ私はヌケてる、のだから。「7」、の芸術的な数字のネックレスを特別注文で一ヶ月もかけて作ってもらったのにそれがないなんて!ああああもう!ヤスくんは22時にはそっち行くからとかなんとか……23時だっけ?あれ?もしかして明日だっけ?いや、じゃあカレンダーの今日の日付についてるあの赤い丸はなんだ、自分。…でも、こうもしてられない。とにかく何かは買わないと!



「う、わ!」 「きゃ!」



必要なものだけ持ってドアを開ける。と、ヤスくんが驚いたような顔で立っていた。あれ?まだ21時なんですけどちょっと!




‐‐‐




コンビニへと続く坂道を歩く。二人で並んで歩いてることがなんだか落ち着かない。ヤスくんは「久しぶりだなー」とか「変わったことなかった?」とか色々聞いてくるけどそれどころじゃない。(ごめんねヤスくん)どこいくの、と聞かれたときは慌てて「ちょっと買出し!」と口からでまかせを言ってしまったけど、正直コンビニなんかに用はない。お土産を無くしたなんてもちろん言えるわけもないし。…




「お腹すいてない?」

「え?…ちょっと、すいてるかな」

「ほらこれ、半分こ」




はい。とヤスくんはポケットからビスケットを出した。なんの包みにも包まれていなかったそれは、ところどころ欠けていた。きっとヤスくんのポケットのなかで散々傷めつけられたんだろうなあ。




「美味しいね」

「だろ」

「……ふぇ、っうああ〜…」

「…ちょっ、え!?」




そ、そんなに美味しかった!?とヤスくんは私の涙を見て焦り始めた。ううん違うよヤスくん。自分が情けなくてしょうがない。こんなに気の利いてカッコイイ人の彼女がこんなんでいいのかなって、自嘲的になってしまう。





「あのねヤスくん、」





でもヤスくんなら、失くしたって告白してみても、きっとあのお月様みたいにキレイに笑って許してくれるだろうな。











end.

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なんだか不思議な関係(^p^)

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