novel
□summer chain(完結)
1ページ/19ページ
「ハァッ…ハァッ…」
腕時計を見ると11時53分だった。
正確には23時48分。
彼女の針は進んでいる。
彼女の上司のために。
細いヒールを鳴らしてリザはその上司の元へ走っていた。
もしかしたら上司は待ちくたびれて眠っているかもしれない。
大分疲れていたから。
それでも、走っているのは彼の為ではない。
自分がそうしたいから。
…要は早く会いたいのだ。
彼の部屋の前で、汗を拭き、少し息を整え深呼吸。
チャイムを鳴らす。
するとすぐに小さく家主の足音が聞こえて、黒い髪がドアから覗く。
「遅く…なりました…」
「そんなに走らなくても良かったのに。…大丈夫?」
息を整えたつもりでも、鼻の良い黒い犬にはお見通しだ。
「はぁ…大丈夫…です」
「上がって」
赤いバッグを受け取る。
黒い瞳がチラリと動いたことにリザは気付かなかった。