novel

□summer chain(完結)
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「ハァッ…ハァッ…」

腕時計を見ると11時53分だった。


正確には23時48分。

彼女の針は進んでいる。

彼女の上司のために。



細いヒールを鳴らしてリザはその上司の元へ走っていた。

もしかしたら上司は待ちくたびれて眠っているかもしれない。
大分疲れていたから。


それでも、走っているのは彼の為ではない。

自分がそうしたいから。


…要は早く会いたいのだ。



彼の部屋の前で、汗を拭き、少し息を整え深呼吸。

チャイムを鳴らす。


するとすぐに小さく家主の足音が聞こえて、黒い髪がドアから覗く。

「遅く…なりました…」

「そんなに走らなくても良かったのに。…大丈夫?」


息を整えたつもりでも、鼻の良い黒い犬にはお見通しだ。


「はぁ…大丈夫…です」

「上がって」


赤いバッグを受け取る。

黒い瞳がチラリと動いたことにリザは気付かなかった。
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