SS

□カツカツカツ
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カツカツ…
パソコンに指を走らせあの人の顔を思い浮かべる。
そろそろ見廻りから帰る時間だな。時計に視線を向け、コーヒーを啜る。心無し期待をしている自分がいる。
何を期待する?
それは……
パソコンでメールを送ろうか。
でも…。
パソコンなんて仕事以外で開く事はなんてないだろう。
じゃあ…電話すればいい。
「会いたい」って言えばいい。
でも…。
言えれば苦労はしない。会いたいのだと素直に言える子はきっと男側からも嬉しいのかもしれない。
でも、言えるか言えないかのかと聞かれたらどちらかと言えば後者の方だ。一言が言えない。それが出来ないのだから苦労しているのだ。

カツカツ…カツカツ
あ い た い
あ い た い
パソコンに四文字を打ち込む。
カツカツカツカツカツカツカツカツカツカツ

あ い た い
あ い た い
あ い た い
あ い た い
あ い た い
あ い た い


同じ文字の羅列はまるで怨念のようだ。気持ち悪い。何処ぞのあんパン野郎と同じではないか。
どうしよう。


だから真選組は恋愛に関して、中二だと言われるんだ。気がついて貰うまで頑張る。それがストーカーと言うのかもしれないけど。



でも、会いたいんだものどうしようもない。
それも、真選組の奴等には見つからないように巧妙に。だって面倒だから。
どうしよう。どうしよう。
パソコンの電源を消し、通信類での会いたい思いを伝えるのはやめた。




カツカツカツカツ…

私は家を飛び出した。静かな街は、私の靴が鳴り響いていた。
今宵は満月。
月明かりも手伝い、暗闇にも目が慣れてきた。視界良好。
何となく成功する気がしてきたの。
だって、月がやたらに光り輝いてムーンプリズムパワーを今なら発揮出来そうな気がするの。
期待と沢山の紙飛行機を握りしめ屯所に向かっていた。
カツカツカツカツ
足音を鳴らして。






屯所に着き、土方さんの自室の前に立ちはだかる高き塀に目掛け、一つの紙飛行機を飛ばした。
紙飛行機は風に乗り、高く上がると旋回し急落下した。




紙飛行機はどうなったのだろうか。
塀が邪魔で見えない。


もう一つ紙飛行機を飛ばした。



何だかもう、屯所に来たんだし、土方さんを呼んだ方が早い気がしてきた。


でも、負けた気がするの。己の魂を奮い立て、また『あいたい』の四文字が詰まった紙飛行機を飛ばした。


「せいやー!」
何となくコツが掴めてきた。
紙飛行機達はなだらかな弧を描き、塀を飛び越えていった。


「よし。帰るか」
持ち合わせていた全ての紙飛行機が無くなると、幾分気持ちが晴れていた。


久しぶり掻いた汗が心地よい。





そんな時、煙草の香りがしてきた。
土方さん、気が付いてくれたんだと、嬉しかった気持ちと同時に恥ずかしい気持が沸き起こり、それは衝動的に突発的な行動に駈られていた。



カツカツカツカツ…
思わず逃げていた。
カツカツカツカツ…




フォーーン
フォーーン
パトカーのサイレンの音がしてきた。


「走ってる奴。止まれ」
聞き慣れた土方さんの声が聞こえてくる。

どうしよう。

カツカツカツカツ…
何だか得体のしれない恐怖に必死に走っていた。


カツカツカツカツ…


だが、サイレンの音は近づき、
「年貢の納め時だ。止まれ」
と呼ぶ土方さんの声がした。
体力的にもだし、車と速度を競うなんざ場違いだった。

走るのをやめ、肩を揺らして、深呼吸する。そこにパトカーが横付けしてきた。


「はあはあ…、は、ハロー。土方さん」
たらりと汗が流れる。
ひきつった笑顔の土方さん。
「何をしたいんだ?テメェは?…ばーか。乗れ」



久しぶりに走ったものだから息が切れる切れる。
渋々パトカーに乗るが、パトカーはニコチン臭くて気分が悪くなった。

「くさっ…」
「…だから何がしたいだと聞いてるんだよ」
「だって…」

呆れ果て、哀れな視線が突き刺さりそうだけど、気分が悪くなってきたものだからそんなのどうでもいい。



「はあはあ…。何処かで休ませて…」
「ああ?ああ…」
土方は目を眇め、溜め息を付きながながら、パトカーのウインカーをつけた。
土方さん少し怒っている模様。

だが、その表情と裏腹に
「んじゃあ、ちょっくら少し休むか」
土方さんが優しく笑った。
「あ、ありがとう」
その優しい微笑みに安堵し、私も笑みを浮かべる。




だが、右折した道は、ホテル街だったので思わず吹き出した。

「何でよ!?」
「たまってんだろ?色々」



そんなんじゃない
会いたいけど
女子たるもの会いたいイコールチョメチョメしたい訳ではない。





パトカーの扉を強引に開いて走った。


カツカツカツカツ




今日は会えたからいいか




今度は、素直に会いたいを伝えよう。



fin

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