SS

□夏風邪はドSがひく
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あの一番隊隊長の沖田が熱を出した。
サディストでも熱を出すのか隊士達はその話で持ちきりだった。

その頃、女中のななこもまた動揺していた。
何故ならつい一時間前の事。
副長に呼び出さられていたのだ。


「はい?今何と?」

「まあ、総悟の世話係だ」

「…せわ?係り!?……ですか?」

些か取り乱した。
沖田の看病を命じられたのだから。
何故私がそのような事をと。
ななこはただならぬ嫌な予感がし、生唾をごくりと呑んだ。




***




しずしずと長盆にスポーツドリンクの入ったペットボトルと薬、お粥を乗せ渡り廊下を歩いた。



「失礼します」
コンと咳払いをし、沖田に声を掛けるが、一向に返事は返ってこない。
沖田が何か企んでいるのかもしれない。

身構えて待つが沖田の反応はなく、これはもしかすると本当に具合が悪くて寝込んでいるのかもしれない。
あの沖田でも余程体調が優れないのか自室はしんと静まり返っていた。


「沖田さん……沖田さん」
だが暫く待てども返事ない。

「大変……」

きっとぐったりしているだろう。襖越しに沖田の容態が容易に想像はついた。


「沖田さん開けますよ」
ガラッと襖を開けると思った通りだ。
布団にすっぽりと被りアイマスクを付けて眠る沖田の姿があった。しかも病人なのに隊服をしっかり身に纏っている。

「お風邪の方はどうですか?」
「最悪でさァ」

ななこは枕元に長盆を置き、隣に座った。

隊服を着ていれば身体のダルさも手伝うだろう。
ななこは意を決した。



「沖田さん着流しに取り代えましょう」

「…それは……面倒な用件ですね」
気だるい沖田の返事が返ってきた。


アイマスクの上からでもわかるぐらいしっとりと汗で額が滲んでいる。
隊服の襟元も汗ばんでいてスカーフが窮屈そうだ。
上着だけでも取りかえてあげれは幾分楽になるだろう。ななこは思った。


「沖田さんそんな格好では風邪は何時までも治りませんよ。着替えましょう」


「……ダルくて…動けないんでさァ」


喉奥から絞り出すように沖田が応え、寝返りを打った。


「では、私がお手伝いします。一度起きられますか?」


「……いや……面倒臭い」
ピクリとも動かない沖田。

「沖田さん、着替えを手伝いますよ!さあ!」
アイマスクを外し、沖田の額や頬を氷水で冷やし絞ったタオルでそっと拭く。

間近で見れば見る程、沖田は端整な顔立ちである。
こんな時に不謹慎だが、熱で魘された沖田は何だかとても色っぽかった。




「……冷たくて気持ちいい」
沖田の顔が少しだけ綻んだ。

「沖田さん、風邪を治すには水分補給と汗を沢山かいて休む事ですよ。少しお疲れだったのですよ」

「……お疲ねェ…。副長の肩書きは疲れますからねェ」

沖田の冗談にななこはふふっと笑った。



何だか自分まで熱があるのではないかと思う程、緊張で汗ばんだ手で沖田の首元のカッターシャツのボタンを緩め、濡れタオルで首元も拭いてあげる。



「着替えるときっと身体も楽になりますよ」
「…ああ。面倒だな。脱がすの手伝いなせェ。しんどいんで」

余程余裕がないのだろう。

「わかりました。いきますよ、よいしょ……」
ななこは沖田の背中を支え引き起こした。


「着替えれますか?」
「……ああ。何とか」
沖田はドサッと上着を脱ぎ、カッターシャツも脱ぎ捨てた。
ななこは無言で沖田の背中をタオルで拭く。
もう二度と触れる事ももう無いだろう。それに自分の名前すら覚えられている筈もない。切ない気持ちと、淡い恋心を抱えながら沖田の背中を丁寧に拭いた。




「沖田さんでも風邪をひくこともあるんですね」


もう少し話していたい。少しでも側にいたい。
その思いで必死に会話を探した。
すると沖田はふふっと乾いた笑い声で言う。
「俺だって一応人間ですからねィ」


上半身をタオルで拭くと先程持ってきたスポーツドリンクをコップに注ぎ沖田に差し出した。


「着流しは何処ですか?」
ごくごくと喉を鳴らしてスポーツドリンクを飲み干すと沖田が応えた。

「箪笥の一番上」
沖田は箪笥に目線だけ向けた。

「私が箪笥をお開けても宜しいですか?」


「ああ、お願いしやす」



高鳴る鼓動に薄紅色に染まる頬を隠すように俯き足早に箪笥に向かう。


指示された一番上の箪笥をそっと開くと、思いの他綺麗に整頓されており、いつも見慣れた淡い栗色の着流しが一番上に畳んであった。

着流しを手に取り、沖田に手渡す。

「…沖田さん。どうぞ」
「……ああ。すんません」

上半身裸の沖田に目のやり場もなく思わず目が泳いだ。

「それでは、私は……」
その場を立ち去ろうとした、一瞬の出来事だった。
沖田の胸元に引き寄せられていた。


「風邪を治す方法はもう一つ」

ななこの上唇に沖田の唇が重ねられていた。


恥ずかしさが一気に身体を駆け巡り熱を帯びだす、そしてぱちぱちと瞬きをし言葉にならない声を上げた。


「お、……おきたさん!ふざけないで下さい!」

真っ赤に紅潮し身を捩らし反論する。


「風邪を治す方法は、水分補給と、汗をかく事ですからねィ。ななこ」

不適笑う沖田。

「……名前、覚えていてくれていたんですね」
嬉しさと恥ずかしさでななこは混乱していた。


「そりゃ、覚えてますよ。いつも見てましたからねィ」

何時の間にか視界は反転していた。
沖田はななこの首筋にキスをしながらななこの細い顎をつまんだ。



「水分補給オーケー。沢山汗をかいて、寝てこれで風邪が治るか試してみましょうかィ。拒否権はななこにはありませんよィ」



沖田の色っぽい誘惑にななこはコクりと頷き深く瞼を瞑った。






fin


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