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うららかな陽射しが降り注ぐ春。
受験も漸く終わり何とか志望の大学にも合格した。



これも銀ちゃんが放課後、みっちりと勉強に付き合ってくれたお陰でもある。
銀ちゃんには言葉では言い表せ無い程感謝で一杯だ。


――そして、私はある所に向かっていた。



「銀ちゃん…」

桜満開の夜の公園。
後ろ姿だけど、ふわふわの銀髪でそれが銀ちゃんだとわかった。


銀ちゃんは桜の木の下で桜を眺めているようだった。


夜桜と銀ちゃんの銀髪とのコントラストが良く映え、何時もとは違う雰囲気の銀ちゃんに思わず頬が熱くなってしまった。



そう言えば、殆ど私服姿の銀ちゃんを見た事が無かったかもしれない。


銀ちゃんにお使いを頼まれてアパートに寄る時は、何時スエット姿だし。



始めて見る銀ちゃんの私服姿は、細身の黒のニットにスリムなカーゴパンツスタイル。


改めて見ると、ホント肩幅も広いし、タイトパンツも良く似合っている。


後ろ姿の銀ちゃんに思わず見惚れてしまった。





「お、来たな〜」


不意に振り向いた銀ちゃんにはっと我に返ると、鼓動と共に小走りで銀ちゃんに駆け寄った。

「ごめん、待った?」
「…いや全然。なんて嘘、待ちくたびれちまったよ」


そう笑う銀ちゃん。

「ごめんなさい。銀ちゃんが遅刻しないなんて考えてもみなかったよ。呼び出しておいてごめんね」


「何ソレ?俺がルーズな前提。酷くない?謝りながら暴言だよねそれ」


そう笑う銀ちゃんは学校で見るより大人っぽくて。やっぱり年上なんだなあと染々思ってしまった。


今まで友達感覚だけど、やっぱり銀ちゃんとは見えない境界線が引かれているようでなんだか胸が苦しくなった。



「銀ちゃんに早く知らせたくて…」


「…で、来たんだろ?通知。どうだった?」

「うん、まあね……」

先程届いた合格通知の結果を一早く銀ちゃんに教えたくて呼び出した訳で。


「銀ちゃん……あのね……」

「うんうん。それで!?」

「えーとアレでね」

「おう、アレだ」


銀ちゃんの口元がぱくぱくしている。
顔も真顔でまるで金魚みたいな顔で思わず笑いそうになった。



「合格してたーー!!」

「マジでかァァァ!!やったね!フィーバーァァァァ!」


思わず私と銀ちゃんは寄り添い、自然と抱き合っていた。



「超ー嬉しいよ!銀ちゃーーん!!やっちゃったよ!あたし!」


「銀さんも嬉しいもう、アレだ。アームストロングジェット砲完成したぐらい嬉しい!!」

薄暗い公園に無邪気に抱き合い、はしゃぐ二人は端から見るとちょっと変な人かもしれない。



そんな二人に、近所で飼っている犬に激しく吠えられ二人は正気に戻った。



「……で、良かったな」

「あ、ありがとうございます」


お互い一呼吸置くと、至近距離で銀ちゃんとバッチリ目が合ってしまった。しかも抱き合った形のままで。



「……あ、」

「いや……」


我に返った二人は、一メートル程離れ、銀ちゃんは頭をぼりぼり掻きむしり、私も、もじもじとセーターの袖を引っ張っていた。


「ああ、アレだよな。一応まだ卒業して無いんだし、コレを見られるとマズイよな」


「……うん。確かに」

あのキス騒動から一件。銀ちゃんと私はごく普通の、どこにでもいる生徒と先生の関係が続いていた。
確かにあの時、キスはされたけど……。
…ノリでされたのかもしれない。


銀ちゃんも学校で私を特別扱いする訳でもなく、生徒と先生の微妙な距離は保たれていた。
あの事がまるで泡沫だったかのように。



先生に恋なんざするのが、馬鹿なようなもんで私も銀ちゃんに期待もせずこの気持ちを胸の内に秘めておこうとしていた。


いい思い出として。




「…ねえ、銀ちゃん。あたし、何年掛かるかわからないけど絶対先生になるから」
もう卒業したら、会えなくなるけどこの言葉だけは言っておきたかった。


「おう!待ってるからな!言っておくがセンセーの道は険しいぞ」

そう言って、銀ちゃんは大きな手で頭を撫でてくれた。
その優しく、温かい手があたしの心を締め付けた。


「……あのさ、」
銀ちゃんが何か言おうとした時、静かな公園に聞き慣れた声がした。


「神楽ちゃん、その眼鏡変えた方がきっと可愛いわよ〜」


「この眼鏡はパピーの形見アルヨ。変えると私の存在意味が無くなるアルヨ。ベッドの上からはじまる恋で出来ちゃた結婚でもパピーはパピーね!ワタシの遺伝子ネ!」


「形見ってお父さん勝手に殺さないの〜。生きてるでしょ?神楽ちゃんのお父さん」


「ああそうネ!どこかの国でハゲ散らかして生きてるネ!」



銀ちゃんと私は、目を見開き見合わせた。


神楽ちゃんとお妙ちゃんだ。
公園で二人会っていたなんてバレたらマズイ。



銀ちゃんは咄嗟に私の腕を掴み、二人は桜の木の幹に隠れた。


急接近になった銀ちゃんと私。
後ろから抱き付かれる形で桜の木の幹に身を潜めた。



近くで見る銀ちゃんの手の甲は筋張っていて、二の腕も筋肉質で男らしい。
あの時のキスも思い出してしまい、それは拷問のようなもので失神寸前だった。

口から心臓が飛び出すんじゃないかと思う程で、足元もふらふらで覚束無い。


ドクドクと波打つ血流をまざまざと身体中で感じていると、陽気な笑い声は遠退いていった。


「行ったな……」

「……うん」



張り詰めた糸が切れた様に二人は、安堵の溜め息をついた。



そのタイミングが絶妙で、それが可笑しくて二人は吹き出してしまった。


「…凄いシンクロ」

笑いながら重なる視線。再び鼓動は高鳴った。


「何で隠れたんだろ私達」

「それは〜アレだ。後ろめたいから?」


改めて考えてみると別に隠れる事でもないし、たまたま会ったと言う事にすればいい訳で。
後ろめたい事も特にしている訳でもない事だし。


「たまたま会ったとかにすればいいじゃん」

「だってよ、センセーと生徒が今から後ろめたい事するしさ…」



銀ちゃんは再び桜の木の陰にあたしを引き寄せた。


「……なあ、もっかいキスしてもいい?卒業まで我慢出来そうねェや」



銀ちゃんは、少し照れていたけど真顔で。
恋愛なんて疎い私はどうしていいかわからず、消えてしまう程小さな声で「……うん」と頷いた。


腰に腕を回されグイッと銀ちゃんに再び急接近したかと思うと、銀ちゃんにリードされながら優しいキスをされた。



「……結構、…アレだ。銀八先生も我慢してたんだから、少し我慢してなさい」


そう言うと、銀ちゃんは身体を更に密着させ、今度は濃厚で官能的なキスをされた。



呼吸すら儘ならず、息つくタイミングがわからない私は、必死でそれに応えるように銀ちゃんの肩に腕を回した。


銀ちゃんは上唇を吸い付き、下唇にも同じように唇を弄ぶように沢山キスをした。



涙が出そうな程嬉しくて。思わず素直に言葉が出ていた。


「……銀ちゃん好き」

「俺は愛してるかな…」


自然と涙が零れていた。

「これから一緒に居てくれよな?」


「……よろしくお願いいたします」



こんな時は何て言えば良かったのだろう。
余裕なんてない私は精一杯の言葉だった。






二人の境界線は一歩踏み出しただけだけど、これから二人歩む未来は輝いているような気がした。




fin,

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