SS

□I'm happy when you're happy.
1ページ/1ページ

たまにだけど銀さんは夜になっても帰らない事がある。それは仕事だったり、飲みに行ったりする事もある訳で夜中の帰宅や日が昇ってからの帰宅の時もある。そりゃ、心配かと聞かれたから心配じゃない訳じゃないと言えば嘘になる。


「銀ちゃん、パチンコにしては遅いアルね。もうこうなったら銀ちゃんの股についているパチンコ明日にでも切り捨てて犬の餌にでもしてやろうネ。ななこ!!」

「パチンコでもして勝ったからどこかで飲んでるんでしょ?」

「あんなもじゃもじゃのマダオなんかどこがいいアルか??一生添い遂げる相手が銀ちゃんなんかでいいアルか?ななこ?」

「あのね、神楽ちゃん、私達まだ付き合ってないよ」

「マジでかああああ!!!???」

「うん。マジで」

「最低な男アル。だらしない男アル!!」

「あはは・・・」
思わず、乾いた笑いを漏らした。

「だって、ななこちゃん、銀ちゃんに性的な事されて、まだ付き合っていないなんて、ただの強姦男アル!弱みを握られてるだけの銀ちゃんの慰安婦アルよ!」

「そうかもしれないね」
神楽ちゃんの言う通りかもしれない。神楽ちゃんの前で作り笑みをするのが正直、精一杯だった。





銀さんに助けてもらい、家事手伝いとお登勢さんのスナックの手伝い収入を少しだけ万事屋に入れる代わりに居候させもらっていた。



「ちょっと言い過ぎかな。神楽ちゃん。私も居候させてもらっている身なんだし。お互いの利害の一致ってやつにしよう!さあ、さあ、もう寝ようか」



銀さんは何やかんやモテたりするし、あの通り適当な所もある。キャバクラだって普通に行くし、『付き合いなんだし〜。タダで飲めるならいいじゃん』とか言ってみたり。
かといって馬鹿真面目な所もある。二年一緒にいるけれど、今でも雲のように掴めない人で。






私が親の借金で身ぐる身剥がされ、春雨に売り飛ばされそうになった時、銀さんに助けてもらった。そして、身よりのない私を拾ってくれたのが銀さんや歌舞伎町のみんなだった。


****




「銀時さん、私の事は気にしないで下さい。ゆっくりと仕事を探しながら、これから気儘に生きて行こうと思いますから」


「おいおい、この期に及んで何を言うんですか。そろそろ卵がけご飯も飽きたし、甘い卵焼きの一つ作ったくれたっていいんじゃねえの?ったく気が利かない女だな〜」


「でも・・・」

「誰でも彼でも家に住ませるほど、俺も寛大じゃねえつーの。家事手伝いが嫌で、私は仕事に生きます、つーなら好きにすれば?」


「でも、そんな都合のいい話なんて・・・申し訳なくて」


「んじゃ、アレだ。ななこちゃんがモロタイプだから〜、そのななこちゃんとならルームシェアしてもいいよとだったら納得いく?」

あの時は、これから住むあてもない私は、何も言えなかった。ただ、涙が出る程嬉しかった事だけを覚えている。


あれから二年経った。勿論付き合うとかそんな気の利いた言葉は無かったけれど、なんとなく銀さんに寄り添ってきた。
でも今なら銀ちゃんに、素直に私の気持ちを伝えられる気がする。





夕飯の買い出しに出たり神楽ちゃんや新八君にご飯を作ったり、定春を散歩に連れて行って、お風呂を沸かしたりしていればあっという間に時間が過ぎてしまった。
神楽ちゃんとお風呂に入って、髪を乾かしあげて、ピン子が出る渡る世間を見たり、歯磨きをしてしていると時間なんてあっという間にいつもの寝る時間が過ぎていた。


「ななこ〜。先寝るアルヨ。ななこあのもじゃもじゃなんか健気に待つ必要ないアル。ササッと寝ないと肌の老化が進むアルヨ」


「うん。ありがとう。神楽ちゃん。またお登勢さんの所に行ってつけで飲んでいるのかもね」


「馬鹿は死なないとわからないアルヨ。ほっといて寝るアル。オヤス〜ななこ」

「オヤスミ〜」


寂しいと言ったら嘘かもしれない。
けれど、いつも銀さんのペースだし、スケベなこととなると朝まで情事に付き合わされたりする事だってある。


「たまにゆっくり一人で寝るのも悪くないかな」


銀さんの居ない寝室は部屋が広く感じた。銀さんの居ない布団と並んで寝ると部屋の室温までが寒く感じ、がらんとした部屋はとても静かだ。
とはいいつつ、いつもの時間になれば眠くなる。それはきっと万事屋が居心地がいいからなんだと思う。



「・・・あ、ご飯のスイッチ忘れた!」


いつもの習慣が身についているのか、ふとご飯の予約スイッチを押すの忘れたことを思い出し、被っている布団を払い除け、慌てて台所に立った。

・・・危なかった。


明日の朝ご飯は何にしようかな。銀さんの好きな甘い卵焼きに・・・、あとは銀さんの好きな小豆を煮て・・・。折角夕飯を作って待っていたのに連絡寄こさないで帰る罰として、夜中に銀さんのプリン食べてちゃお。・・・なんてね。




・・・いやだ、銀さんの事ばかり考えている。炊飯器の予約タイマーを押すと、再び布団に潜り込んだ。



「・・・なんか馬鹿みたい」
布団を深く被ると深呼吸をして瞼を閉じた。

ようやくうとうとと、眠りについた頃、みしみしと畳が犇めく人の気配に目が覚めた。
瞼はまだ開かなくてぼんやりとある意識の中でもそれは銀さんの歩く足音だと感じた。



「ふー、飲み過ぎた。よいしょっと」

そう言うと人影は、わたしの布団の中に入ってきた。それと同時にアルコール臭い香りを漂わせている。


「銀さん?」


しばらくすると筋張ったごつごつした逞しい腕の感触に包まれた。
寝ぼけ眼擦るとすごく近くにある銀さんの顔。

「遅かったね」



「えーと、アレだ。暇潰しにパチンコ屋のぞいたら、グラサンのおっさんが、玉くれたの。そしたらさー、ヒィーバーしちゃったもんだからよぉ。その玉の軍資金は俺のもんだから三割は俺の玉だとかマダオが言うもんだからさぁ〜。帰りにおっさんと二人飲んできたわけよ〜」


「へ〜。そうなんだ」

まだ夢心地の中のせいか安堵感のせいからか、銀さんに身体を覆われていると温かくて心地良い。
少しお酒臭いのが腹が立つけど。



「あ〜。あったけ〜な人肌最高。てか、ななこだから癒やされんのか。」


「銀さん、いきなりそうされるとびっくりするって言ったでしょ?」


「ごめんごめん〜、ななこちゃんもう少しこうさせて」


「強盗とか強姦かと思ったじゃない!心臓に悪いよ!ホント」


「あ、ごめん、マジごめん。心臓大丈夫?」

そう言うと銀さんは胸元に顔を埋めて、胸に頬ずりする。


「うん。大丈夫だ。心臓動いてます」


「ちょっと!!ヤメテ!!この酔っ払いが!!」
銀さんの脇を抓った。
「あばばば・・・イテー。・・・でも、身体は待ってたんじゃないの〜。ちょっと感じちゃってる。だって、乳首が立ってるよ」


下着を身に着けてない、寝間着の身体を銀さんは胸を厭らしく揉んでくる。



「全然待ってませんから!!そんなとこ触らないでよ変態っ!」


銀さんの頭をポンポン叩き、銀さんの脇をまたぎゅっと抓った。

「あででで・・・!!そう、怒らないでよ〜」



ふざけていた銀さんだったけれど、私の身体をぎゅっと引き寄せた。
しばらくの間、不思議な沈黙の空間が続いた。




「あのですね・・・、その・・・」
口をもごもごさせ奥歯に物が挟まったような表情の銀さん。


「な、なに?」


変な沈黙が不安感を煽る。



すると低いトーンのとても心地良い声で銀さんの腕が更に力強く私の身体を包み込んだ。


「銀さん・・・?どうかした?」


「その・・・アレだ・・・もう、福山も結婚したんだし、・・・その・・家族になろうよ」


「・・・え?・・・はぁ?」
そう言うと、銀さんはおもむろに私の指に慣れない不器用な手つきで、玩具の指輪を私の指にはめた。



いきなりの事でその意味をすぐには理解出来なかった。ただ、すごく照れている銀さん。お酒のせいかわからなかったけれど、顔がほんのり赤い。



「ありがとう。私も銀さんとずっと……一緒に居たい」

銀さんにはどんな表情に映っているんだろうか。私の声は震えていた。


「そんな、幽霊でも見たような顔すんなよ。ババアがうるさくてよぉ〜。だらしない、だらしないって。汚らわしい男だって。けじめつけろってうるさいしよぉ。
・・・ああ、畜生何だか今日は少し飲み過ぎた」



まだ銀さんの言葉が信じられなくて呆気にとられていた。

「銀さん。ねえ銀さん?」

「ん?」

「その、約束してもいい?その、もう少し早く帰ってきてくれないかな?」

「え?何それ?寂しかったってこと?」

「違うから。心臓に悪いから。夜中にそんなことされると。それに・・・心配だから」

「へえ、そう・・・そう言われてもなぁ・・・。そのアレだ、銀さんも忙しい時もあるわけで」


「ごめん。なんか重い女だよね」


銀さんのそのいつもの曖昧な言葉と、たまに見せるそっけない態度が時々私を苦しめる。

仕事の依頼もあったりもあるけど、危険なことに巻き込まれてないか不安な日が時々あったから。


銀さんは表情を変えず静かに私を見つめていた。喉奥に張り付いた言葉がなかなか出てこなくて。



「その・・・すごく好きだから。銀さんのこと」

「・・・へぇ」




銀さんは相変わらす素っ気なくて胸の奥がますます締め付けられるようだった。
じゃあ、どうして結婚してとか言うのよ。言いたいのは山々だった。



「・・・ごめん、銀さん。何でもない。忘れて」


「なぁ、ななこ」


「・・・へぇ?」



「・・・その・・、今まで言いたかったんだけど・・・いい?そのアレだ、・・・すごくすんごくしたい」


「馬鹿。変態!!!!もう、あんな馬鹿なことは二度と言わない!!!」



銀さんは、半泣きの私を宥めるように、その大きな手で私の頭を撫でて言った。




「ななこを抱いた時から、うーん違うな。初めて会った時から決めていた。ななこを一生大事にするって。幸せに出来るかどうかは分からないけど大事にしたいと思う。
・・・だから・・、その・・・今すぐ二発ぐらいさせて・・・ぐだざい」
再び脇腹を強めに抓ると、銀さんは涙目になっていた。


「お風呂入ってないからいやだです」


「んじゃ、今、シャワー浴びるんで待っていて頂けないでしょうか。お願いしますっ!子作りしようよ〜。おねがいななこちゃん〜」


「銀さんの馬鹿。今日は閉店となりました。またのご利用をお願い致します」



銀さんは、胸を弄る仕草をしてきたが、酔っ払い相手を拒み続けると、しばらくすると諦めたのか寝息が聞こえてきた。
すやすやと眠る銀さんは無防備でかわいいくて、思わず銀さんのおでこにキスをした。




「おやすみ、銀さん。これからもよろしくね」









あなたが幸せだとわたしも幸せです
fin.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ