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□今宵、月が見えずとも
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ふわりと優しい風が吹き、セレニアの花ビラが舞って来た。

風と共に聞こえた自分の名前に振り返る。
そこにいたのは緋色の髪と翡翠のような瞳を持った彼女だった。

「泣くなんてらしくねぇーじゃん」

「……!」

「ちょっと、幽霊見たみたいな顔しないでくれよ。
…って、ジェイド…」

考えるより先に体が動いた。
彼女に近付き、自分の腕の中に納めた。

「本当に…本当に、貴女なんですか?」
「本当も嘘もねーよ」
「…会いたかった!ずっと、ずっと…」
「ジェイド…」
「…もう、どこにも行かないでください」
「えっ…?」
「ずっと…そばにいてください」
「いいのか…?俺がいても…」
「貴女がいないとダメなんです。貴女じゃないと…意味がないんです。」

肩に埋めていた顔を上げ、彼女の顔を見る。
最後の時より、少し大人びた顔になり、髪も伸びていた。

「ジェイド…あのさ…」

そっと頬に手を延ばし、触れるだけのキスを施す。

「ジェ、ジェイド?!」
「ルーク、愛しています…」
「えっ…?」
「本当は…貴女が消える前に言いたかった…」
「ジェイド…俺…」
「迷惑でしたか…?」
「違っ、そんなじゃなくて…、ホントにいいのか…?」
「貴女じゃなきゃダメだって言ってるでしょ?
…それに、泣かないでくださいよ」
「だって、だって…。
もう、俺の事なんて忘れてると思ったから…。
なのに、いつもジェイドの声が聞こえて…」
「ルーク…」
「声、届けたくても届かなくて…、触れたいのに、触れれなくて…」
「考えてるのは貴女の事だけでした。
切ないから…忘れようとも思いましたよ…何回も。
…でも、結局、忘れるどころか…想いは膨らむばかりでした。」
「ジェイド…俺、もう離れたくないっ!!」
「ルーク…」
「ずっと、そばにいたい!!
何があっても、もう一人にしないから…だから…」
「…ありがとう。
…帰りましょうか。」
「うん…」




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