[ショート・ショート]

□【君の軌跡】
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 君は、僕の隣で目を覚ます。
 瞼がゆっくりと開いて、一番最初に僕と視線が合う。
 眠たい目を細めて、君がふわりと微笑む。
 その幸福。
 だるそうに腕がのびてきて、僕の首にまとわりつく。寝起きの気だるさに、僕は静かに息をのむ。
 君の嬉しそうな顔に、僕は安心する。
「起きて」
 バイトの時間だから、と君の腕を振りきり、僕がベッドから出ると、少し残念そうな君の横顔が飛込んでくる。
 甘えたいのは僕も同じだけど、今は君を甘やかしてはあげられない。
 君は仕方なさそうに起き上がり、ベッドの上にちょこんと座り、もう一度僕を見上げる。
 寂しそうな瞳に、一瞬硬直するが、それを無視して僕はクローゼットから着替えを取り出し、着替えを始める。
 君はそれをじっと見ていて、僕はその視線を意識しながら、気付かぬフリを決め込む。
 本当は、今すぐ君を抱き締めて、キスを浴びせたいけど、そんな時間はもうないのだ。
 朝は短い。
 君の着替えも準備してやり、僕は朝食の準備に取り掛かる。
 君は瞼をこすり、のろのろとベッドから這い出し、服を着る。君が服を着る間に、僕はトーストを2枚焼く。それから目玉焼きもふたつ焼く。
 君がのんびり寝室を出て来る頃には朝食の支度は整えておこうと、僕は結構必死だ。
 けれど、それは君は知らなくてもいいところで、僕なりの見栄の張り方だ。
 君はやっぱりゆっくり寝室から出てきて、いつものように出来上がっている朝食を見て、「うまそー」 なんて言ってテーブルの向かい側に座る。
 二人で声を揃えていただきますをする。
 君はマーガリンを塗ったトーストに大胆に目玉焼きを乗せて被りつく。
 僕は別々に食べるけど、君のそれも悪くない。
 あっと言う間に食べ終えて、僕は食器を片付ける。
 君は幸せそうな顔して、キッチンのはしっこで僕を見つめる。
 片付け終えた僕は、かばんを肩から下げて、鍵を持って玄関に向かう。
「いってらっしゃい」
 君は寂しそうな顔をしながらも、壁にもたれておとなしく見送ってくれる。
 僕はどうしようもなく君が愛しくなって、ちょいちょいと手招きをして君を呼ぶ。
 君はとことこ寄ってきて、僕を見上げる。
 僕は君の頭を撫で、頬に手を添え、口付けを落とした。
 君はびっくりした顔をして、真っ赤になった。僕はそれを見て満足気に微笑むと、バイトへ向かうため、玄関のドアを開けた。






END

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