[ショート・ショート]

□【今夜、僕のとなりで。】
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 雨の音が聞こえて目を覚ますと、彰悟が出窓に座って、窓の外をただ静かにみていた。
 窓の外はまだ暗く、屋根から落ちる雨垂れの他は闇が見えるばかりで、彰悟の姿が窓に映っている。啓介はもそもそとベッドから起き、彰悟の側へ歩み寄った。窓越しに見る彼の表情は、何だか寂しそうだ。
「どうした…?」
「いや、眠れなくてさ…起こしちゃったかな、ごめん」
 彰悟は若者らしい、切れ長の瞳でチラリと啓介に視線を寄越すと、少しバツの悪そうな顔を見せた。
「いや、彰悟のせいじゃないよ」
 啓介はするりと彰悟の前に回りこむと、同じように出窓に座った。
 しばらく、互いに何も言わず、しかし、恋人同士の心地よい沈黙が包んだ。雨垂れが沈黙をさらに心地よいものにしている。
 彰悟は窓の外を見つめ、啓介は窓の外を見つめる彰悟を見つめた。
「ねぇ…」
 沈黙を破ったのは、啓介だった。
「なに?」
 彰悟は窓の外を見つめたままだ。
 啓介は少しだけ彰悟に近づき、そっと顔を覗き込んだ。
「何でそんな寂しそうな顔してるの?」
 心配そうな顔で覗かれ、彰悟の端正な顔が、少し驚きの表情にかわる。 啓介は久しぶりの二人きりの夜に浮かれていたというのに。彼には退屈だったのだろうかと、一瞬不安に駆られる。しかし、先ほど失神してしまうほどに求められたことを思い出し、啓介はそれは違うと思い直した。
「別に寂しい訳じゃないよ…」
 彰悟が少し照れ臭そうに否定する。
「……本当に?」
「……嘘」
 重ねた啓介の問いに、彰悟は今度は少し悔しそうに白状した。
「…啓介さん、この前の賞取ってからテレビとか出て、忙しそうだから」
 そういって俯いてしまった彰悟を見て、啓介は思わず笑ってしまった。
 要するに拗ねているのだ……! この年下の恋人は。
「笑わなくてもいいだろっ…!」
「いや、ごめんごめんっ……はは…あんまりにも可愛いことを言うから、つい」
「はぁ?! …な、何言ってんだよっ…」
 言いながら、彰悟の顔がみるみる赤くなるのが暗がりの中でも判る。ますます彰悟が可愛く思えて、啓介は彼の胸に抱きついた。
「わっ…! なんだよ、急にっ…」
 そのまま応えずに笑いを収めると、啓介はそっと顔を上げた。
「大丈夫だよ、仕事が忙しくたって彰悟のことは忘れてないからさ」
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