[ショート・ショート]

□【空からの手紙】
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 突然に、この恋は終りを告げた。
 世間から許される恋ではなかったかもしれないけど、俺たちはそれなりに上手くやっていたし、とても愛し合っていた。
 ……けれど、彼は死んでしまった。



 彼、渋谷裕太が亡くなってから、二週間が過ぎたが、俺は何をする気にもなれず、ベッドに横になり、虚ろに天井を眺めていた。
 彼がこの世から居なくなってから、俺はまるで生きる屍だ。
 振り払っても、振り払っても、彼の笑顔が頭から離れられず、それを思い出すたびに、もう二度とその笑みを見ることは出来ないということを思い知らされる。

 ……始めは信じられなかった。

 葬式の時、初めて彼の亡骸を見た。
 涙なんか出てこなかった。
 綺麗にされた体や顔は、まるで眠っているようで。
 俺は棺に花を手向けるとき、密かに彼の頬にそっと触れた。
 とても、冷たかった。
 その時初めて、彼が居なくなることを実感した。
 生きている彼に、最後に会ったのは彼が亡くなる三日前の、とても暑い日で、彼のバスケの試合の日だった。
 彼は一年にしてレギュラー入りするほどの実力を持っていた。 試合中、相手チームのファウルで裕太が仰向けに倒された。しかし、その時は普通に試合を続けられた。しかし、その時に頭を打っていたことが原因らしい。
 試合後、俺は彼と一緒にファーストフード店に寄り、他愛もない話をして、帰った。
その時は、特に変わった様子はなかったのに。
「じゃ、またな」
「おぅ」
 別れ際、彼が言い、俺は軽く応えた。
 短い言葉のやりとり。
 そして、それっきり。“またな” はもう二度と訪れることはなくなってしまった。



 ピンポーン……
 その時、玄関チャイムが鳴った。
 俺は出ようとは思わなかった。今はまだ誰にも会いたくなかったからだ。
 しかし、何度かチャイムを鳴らされて、俺は仕方なくのろのろと玄関に向かった。
 ドアを開けても、そこにはもう誰も居なかった。
 ドアポストを覗くと、郵便物を知らせる通知が入っていた。
 俺は溜め息をつきながら、何気無く差出人欄を見て、息を詰まらせた。
 そこには、“渋谷裕太” と書いてあったのだ……!
 俺はすぐに電話して再配達してもらった。
 彼からの郵便は、小さな箱に収められていた。その箱の上に手紙がついていた。
 俺は、その手紙を読んだ。



“誠へ
 誕生日おめでとう。
 この前、どんなものがいいって聞いたら、
 俺と同じ物が欲しいとか言うから、
 この前一緒に買いに行ったやつの
 片割れをやろう(笑)
 大事にしろよ!”



 たったこれだけの文章だけど、これは俺が彼に愛されていた証だと思うと、枯れたはずの涙が戻ってきて俺はまるで彼が天国から送ってくれたかのような、その手紙を抱きしめて、声を上げて泣いた。
 包みの中には、リング状の小さなピアスが入っていた。



大事にするよ。
俺は、心の中でそっと彼に誓った。







END

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