[ショート・ショート]

□【待ち惚け】
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 待ち合わせの15分前。
 俺は駅前交番の前に着いた。
 ガードレールに腰掛け、待ち人を待つ。
 いつも時間ギリギリか少し遅れてくる彼を思い、長期戦も覚悟の場所取りだ。
 彼は今何をしているのか?
 今日の約束を楽しみにして、髪を整えているのか、それとも、まだ寝てたりして。
 その時、ケータイが鳴った。
 画面をチラッと確認して、通話ボタンを押す。
「もしもし」
「もしもし、俺! ……ごめん、今起きた」
 やっぱり。
「おー、わかった」
「ホントごめん!」
 電話の向こう側から、本当に申し訳なさそうにしている彼の顔が想像出来るから、恨み言は今は言わない。
「じゃあ俺、どっか入って待ってるから、着いたら電話して」
「わかったー! なるべく急いで行くなっ!」
 通話を終え、俺は簡単な喫茶店に入り、コーヒーを注文した。
 窓側の席を選び、コーヒーをすする。
 窓の外を見ながら、道行く人々を眺める。
 その中に、彼がいないかと探すが、まだ着く時間ではないのはわかっている。
それでも、探してしまうのは何故だろうか。
 俺はポケットから煙草を取り出して、火をつけた。
 紫煙が揺れるのをぼんやり眺めながら、ケータイを見る。
 まだあれから10分しか経っていない。
どのくらいで着くのかな……?
 ぼんやりと考える。
 彼とは、かれこれ6年になる。
 結構長い付き合いだ。
高校で知り合って、卒業式に告白された。
 最初は冗談かと思ったけど、彼の本気が伝わってきて、流されるように身体を繋いだ。
 始めは戸惑いもあったし、すれちがいもあった。男同士でどうにかなるのも抵抗があったし。
 でも……彼があまりにも真剣で、本当に彼に好かれてることがわかったから……。
 だから、俺は彼の手を取ったんだ。
 懐かしいことを思い出しながらコーヒーを啜っていると、短い着信音が鳴った。
“今家でたから!”
 と、短いメールが届いた。
 きっと今頃家からの道を早歩きで歩いているのだろう。
 人通りの多めな道だから、走ったりするのは格好悪いと思っていたりする彼は、それでも最大限急いで向かってくれているんだろう。
 それはそれで、彼の思いはとても嬉しかった。
 そろそろ店を出ようか。
 きっともうすぐ彼が来る。
 俺は、つい出てしまいそうな嬉しさを慎重に隠して、駅前に向かった。
 少しでも早く、彼を迎えるために……。



END

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