[ショート・ショート]

□【君の軌跡‐見送る猫‐】
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 俺は朝が嫌いだ。
 眠いし、動けないし、となりにお前はいないし。
 一緒に起きることなんて滅多にない。
 一緒に起きても、キスのひとつもない。
 まるで昨夜あったことなんか忘れたように、お前はベッドを抜ける。
 忙しいのは判るんだけど……だから朝は嫌いなんだ。
 朝なんか来なければいいのにと何度思ったことか。
 けれど、無情にも朝は毎日やってくる。
 生活費を稼ぐため、バイトを掛け持ちしてるから仕方ないのはわかるんだ。でもね、キスのひとつくらい、それこそ朝飯前だと思わないか?
 愛されてない訳じゃないのに、俺はなんて貪欲なんだろう。
 事情を何もかも知った上で、まだそんなことを思っている、俺の我が儘さ……だから、絶対言えないんだ。こんなことは。
 あーあ、いっそのこと、仕事なんか辞めさせて、部屋に縛りつけてやりたい。
 バイトなんかしなくても、俺の貯金があるから暮らしていけるのに。
 でもお前は絶対受け取らないよな……
 そういうやつなんだ。
 だから好きなんだけどね。
「朝飯出来たよ」
 ごそごそのんびり着替えていると、お前が寝室のドアを開け、声をかけてくる。
「今行く」
 もう我が儘は言えない。
 だって、窓から差し込む朝日を浴びて、きらきらに輝く笑顔。
 もう何も言えなくなってしまう。
 お前には勝てないよ。
 半分諦めモードでリビングに行くと、いつもの朝食が並べられていた。
 トーストと目玉焼き。あとは日替わりのサラダとスープとコーヒー。
 やっぱり朝はこれだよな。
 並べられた朝食を見た途端、現金なお腹がぐぅ、と鳴った。
 「さ、食べようか」
 お前の言葉で、いただきますをする。
 やっぱりお前の作る料理は美味い。料理の専門に通ってるだけはあるなぁ。
 朝ごはんを食べ終えて、片付けを手伝って、もうすぐお前と一時のお別れの時間だ。
 寂しい、もう少しだけ、一緒にいたい。
 でもそれは叶わない。
 これでもギリギリ、一緒にいてくれているのを俺は知っている。
「いってきます」
「……いってらっしゃい」
 上目遣いで、精一杯引き留めるも及ばず……
 お前は少し困ったような、名残惜し気な笑顔を向ける。
 その顔を見て、俺は少ーしだけ満足したので、今日はこれで解放してやることにした。








END

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