[ショート・ショート]

□【オレンジ。】
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 放課後の教室の静けさが好きだ。
 夕暮れの陽射しの差し込むオレンジ色の教室にはもう誰もいない。
 外から聞こえてくる運動部の声。
 毎週、火・木曜日はこうしてぼーっと教室に残って静かな空間を楽しむ。
 月・水・金は部活。
 俺は美術部に所属している。
 美術部はうちの学校では人気がなく、部員はたったの7名。しかも男子は俺を含めて2人だけだ。
 こんな一見ハーレム状態の部活なのに、現在俺が片想い中なのは何故か、俺以外には唯一の男子、矢野 大志(ヤノ タイシ)だった。
 何でこんな女だらけの部活なのに、男のことなんか好きになってしまったのか……。考えると何だか虚しい。
 けれど好きな気持ちは気づいてしまえばもう、あとは認めるしかない。元よりどうにかなるなんて思ってはいない。
 この俺の不毛な恋は、とりあえず秘めたままにしておこう。
 
 そう思っていつも通りに過ごしていたある日、独りの静かな空間を楽しむ教室に突如、バンッという音が響いて、俺は読んでいた本を取り落としそうになった。
 驚いて振り向くと、そこには美術部男子の片割れ、矢野がいた。
 何を急いでいるのか、走ってきたらしく息が上がっている。
 俺は突然の出来事にただ呆然と彼を凝視してしまっていた。
 彼は勢いよく開けたドアを、今度は丁寧に閉め、こっちを見て笑った。
「どうしたんだ……?」
 何が何だか、この状況の訳が判らず、とりあえず俺は近づいてくる彼に何気なさを装いながら声をかけた。
「うん、ちょっと美術部の女子に今聞いたんだけどさぁ」
 彼は机と机の隙間を縫いながら答える。
 何だ、部活の話か。
 俺はやっぱり、と思うと同時に平静を取り戻す。
 それにしても部活の話ならそんなに急がなくても良かっただろうに。
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