[ショート・ショート]

□【グレー。】
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 月・水・金は部活。
 俺と矢野は一組と七組で最も遠いクラスだから、部活のない日はほとんど顔を合わせることがない。
 だから月曜の部活は、週の始めから矢野と会える特別な日だ。
 たとえ密かに思うことしかできなくても、この日は自然と嬉しくなる。
 授業が終わり、美術室まで足早に歩く。
 早く行ったからと言って早く会えるとは限らないのだが、ただ気持ちが早る。それにまだ誰も来ない美術室で二人で会えたらラッキーだ。
 美術室の前に着くと、俺は少しだけ気持ちを落ち着けて扉を開けた。
 美術室には誰もいない。
 四人掛けの大きな机が六つ並んでいるだけだ。
 軽く残念な気持ちにはなったが、それには頓着せずに部活の準備をするために、奥の美術準備室へ向かう。
 授業で使うものとは別に、美術部用の画材などが入れてあるロッカーがある。
 俺は準備室の扉を開けた。
「うわっ……」
 扉を開けた途端、目に飛び込んできたのは、矢野の姿だった。
 扉の斜め向かいに置かれた二人掛けの古いソファーで矢野は寝ていた。
 俺が声を上げたのに、起きる気配がない。
 それでも何とか気にしないようにしようと、俺はデッサン用のクロッキーブックを取り出した。
 けれど振り返った瞬間、ふたたび矢野の気持ち良さそうな寝顔が飛び込んできて、もう目が離せなくなった。
 ……ちょっとだけ眺めていたい。
 少しだけだから、と自分に言い聞かせる。
 もうすぐ他の部員たちも集まって来る頃だ。
 そろそろ起こそうか。でも、もったいない。
 俺はクロッキーブックを持つ手に力を込めた。
 そうだ、クロッキーブックに残せばいつでも眺められる。
 こんなに音をたてても起きないのだから、描く音くらいでは起きそうにないだろうし、大丈夫だよな。
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