[ショート・ショート]

□【オレンジ。】
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「お前、やっぱり俺のこと好きなんだろ?」
 背筋が凍りつく。
 あまりに唐突で思いがけない言葉を聞いて、心臓が止まるかと思った。
  血が逆流してるみたいに目の前がぐるぐる回るようだ。
 しかも“やっぱり”って何だ?
 俺は一度だって告白なんかしてないし、そういう素振りを見せたつもりもない。むしろ気づかれないように注意していたから、最近は少し距離を置いていたのに。もちろんこの気持ちは誰にも言っていない。
 いや、それよりも……気づかれた?! いや、気づかれてた?!
 彼にも、部の女子にも?
 そんなはずは……だって今までそんなこと……
 何で? どうして?
 それより今はこの場を何とか誤魔化さないと。
「何のハナシだよ?」
 声が少しだけ上擦った。
 睨みつけるように、彼を見た。
 彼も負けじと睨み返してくる。
 俺はすでに負けそうだ。
「そんな気はしてたんだよ。不自然なくらい可もなく不可もなくの距離感で、一年以上ずっと保たれてて、部活以外では会っても話しもしない。かと言ってクラスとかにはそれ程仲良いヤツもいないみたいだし」
 言われた通りだ。
 今までそうやって何とか保ってきたんだ。
「だからって、何で俺がお前のこと……」
「だって、俺のこと気にしてるだろ? 最近、俺を避けてる。気にしてなかったら別に今まで通り、他の奴らと同じ扱いでいいはずだし」
「別に好きじゃ……」
 俺の声が言い訳みたいな弱々しい強がりを吐く。
 図星すぎてもう言葉が浮かんでこない。
 彼を睨んでいた視線は、ついに沈んだ。
「あとは」
 さらに続ける彼の言葉に目を閉じて耳を塞ぎたくなったのを、何とか堪える。
「お前のクロッキー。女子がこっそり見たら一枚だけ人物画が」
「……そ、れは、たまたまだろ! ただ描きやすかっただけっていうか……」
「それと、」
「まだ何かあるのかよ?!」
 これ以上暴かれたくなくて遮ろうとした声が思った以上に大きく響いて、驚いて慌てて口を噤んだら、彼は立ったまま真っ直ぐに俺を見ていて、また目がそらせなくなった。
 日暮れのオレンジ色の教室と、外の喧騒に混じっても煩い俺の心臓の音。
 そして、聞こえたような気がした「俺の願望」という彼の声。
「え?」
 さぞかし間抜けな顔をしていただろうと思う。
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