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□鬼は臆病者に恋をした
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エピローグ
「俺、恋人が出来たの生まれて初めてだ。欲しいものが手に入ったのも。 ずっと ひとりぼっちだったから…」
土方と恋人同士になって初めてしたのは、壁に背中を預け、二人並んで座りながら手を繋いでのんびりする事だった。
土方の肩に頭をポテッと乗せて俺が呟くと、土方は俺の顔を覗き込むようにした。
「さっきから気になってたんだが…お前、それ間違ってるぞ?」
「……え?」
真剣な表情で言って来た土方に、意味が分からず不思議顔を向けると、土方は苦笑した。
「欲しかったものを手に入れた事、本当に今までなかったか?」
「………ぅ?」
俺が困り顔をすると、土方は再び真剣な表情をした。
「いいか?銀時。
俺が初めてじゃねぇんだよ」
「…へ?」
「よく考えろ。お前は欲しいものを今まで何にも手に入れられなかった訳じゃねぇだろ?
ずっと‘ひとりぼっち’だったなんて言わせねぇぞ。
メガネやチャイナ。それだけじゃねぇ。周りをよく見てみろ。お前の側には いつも沢山の仲間がいっぱい存在(いる)じゃねぇか」
『銀さんっ!』
『銀ちゃんっ!』
「っ…………」
土方の言葉に、脳裏に俺を呼ぶ声が流れ、みんなの顔が次々に浮かんだ。新八に神楽、定春。
お登勢のばーさんに、たまやキャサリン。長谷川さん。
ヅラや坂本、今は進む道の違いから決別した高杉まで…。
それだけじゃない。他にも沢山の人の顔が浮かぶ。
「…あぁ、あぁ。本当だ」
本当バカだな、俺。
大切な仲間(ひとたち)は昔から近くに居たってのに。
「人ってのは、それに気づいてねぇだけで、けっこう幸せを手にしてるもんだ。なぁ銀時、俺達はよ、どんな小さな喜びでも、些細な幸せでも、それを見逃さないで生きて行こうな」
「うん、………うんっ」
胸が温かくて、涙が溢れた。
そうだよ。父さん、母さんが、どんな理由で俺と別れているのかは知らない。でも、その二人が居たから俺は今こうして生きていられるんだ。土方と、出逢う事が出来たんだ。
松陽先生だって、確かに逝ってしまって、もうこの世には存在しないのかも知れないけど、でも、消えて無くなった訳じゃない。俺の心(なか)で、ずっとずっと、今も生き続けてるじゃないか。
ポロポロと流れる涙を、土方は優しく指で拭ってくれた。
土方のその手に、俺はスリスリと甘える様に頬を擦り寄せる。
「っ…」
すると、土方の顔は一気にボッと真っ赤に染まった。
可愛い。 そう思いながらウルウルした目で土方を見つめ続けると、その土方の顔がゆっくりと近づいて来た。
そっと瞼を閉じると、次の瞬間、俺と土方の唇が重なった。
ただ触れるだけの口づけ。
ファーストキスって訳でもないのに、こんなに緊張してこんなに恥ずかしいのは、相手が土方(すきなひと)だからだろうか。
唇が離れていき、瞼を開けると土方と目が合った。
土方(むこう)も俺(こっち)も照れくさそうにハニカミを見せる。
「これは、些細な幸せじゃなくて おっきい幸せだから、流石に見逃す、なんて、出来ないね」
なんて頬を染めながら言えば、
「っ……」
土方は益々 真っ赤に真っ赤になってしまった。
「おまっ…なんつう可愛い事…やべぇ、今のは煽ってんのか?理性効かなくなったらどうしてくれんだ…。襲っちまうぞ…」
ブツブツ呟く様に、多分独り言のつもりで言っていたのだろう土方の言葉は、しっかりと俺にも聞こえていた。
って言うか、ここに来た時には俺を犯すとか言ってたくせに。
………別に、襲ってくれても構わないんだけどな…。
なんて思いながら、無意識にも誘う様にトロンとした表情で見つめたまま、指を熱っぽく絡めると、
「っ…」
やがて土方の理性という名の糸はプツリと切れた様で…。
「銀時っ!!」
ガバッと畳に押し倒された。
「ぁ……だ、だめ」
「銀時(そっち)から誘っといて今更ダメはねぇだろ?」
欲情しきった獣の様なその目に、土方に、ゾクゾクした。
「だって…今したら、俺 きっと…すごく、乱れちゃう。
絶対…すごく、激しいのが…、欲しくなっちゃうもん。
い…淫乱って、軽蔑しない?」
「っ……本当、どこまでも煽ってくれるよな、お前は。
いいぜ?その望み、叶えてやるよ。乱れたお前も見たいしな。
軽蔑も、しねぇよ。
ソレが、一生 俺にしか見せない姿だってんならな?」
ニヤッと口角を上げ微笑む土方の顔がカッコ良すぎて、
キュンッて胸が高鳴って、ゾクって背中が震えて、ウズウズって下半身が騒いだ。
「うん。一生、土方だけ。
…欲しいよぉ………来て?」
こうして、俺達は本能のままに、熱い熱い一時(ひととき)を過ごしたのでありました。
おしまい。
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