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□彼はアイドル
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画面のきみにくちづけを




それはある休日の事、俺はドキドキ ソワソワしながら部屋の中で落ち着きなく座ったり立ち上がったりを繰り返していた。


ハマりにハマって夢中になっている‘あるアイドル’の新作DVDが、この日に自宅に届く手筈になっているからだ。


時計を見れば時刻は11時と30分を少し回っていた。午前中の配達に指定してあるから、そろそろ届いてもいい頃だ。


午前中だけでもう何本目か分からないタバコを取り出し、火をつけた時だった。俺の部屋にインターフォンが鳴り響く。


「っ…来た!!」


チッ、遅ぇよ。
次からはコンビニ受け取りにしよう。うん、そうしよう。


玄関を開けると、やって来たのはやはり配達員で、俺は逸る気持ちを抑えつつ支払いをちゃっちゃと済ませ、足早にテレビの前に移動した。


荷物を開け中を見る。


「っ……今回のパッケージも可愛いな、おい」


自転車に跨がる銀を下からローアングルで撮影しているそれは、知らない人が見たら、まさかこれがAVだなんて思わないであろう爽やかなパッケージだった。でも…足の開き具合が、太もものムッチリ具合がズボンを履いてて生足な訳でもないのにエロくてニヤケそうになる。


そう、俺がハマって夢中になっているアイドルとは、AV界の、しかも男同士ゲイものの、受け専門のトップアイドル。芸名、銀。本名、坂田 銀時。


一時停止や巻き戻し、音量調整がすぐに出来るようにリモコンを握りしめたまま、鼻唄まじりでディスクをセットし、テレビのスイッチをオンにした。












────…
───…


この日、俺は寝不足だった。
提出締め切りがギリギリだった課題を朝方までかかって仕上げ、出来上がった、やり遂げたという満足感からか、一日中ボーッとしていた。


眠たいのならさっさと帰って寝ればいいものを、俺は友達の誘いを断らずに夜の町へ飲みに繰り出してしまった。


なんの言い訳にもならないけれど、友達と解散した後、最寄り駅に停めてあった自転車に乗って帰りながら、もうすぐ自宅のアパートに着くって交差点に差し掛かって、油断してたんだ。


────ガッチャン!!


その音と、自分の体に伝わった振動で俺はハッとした。


やべぇ、やっちまった…。


目の前には自分が運転していた自転車が、信号待ちをしていたやけに高そうな車にぶつかっているという光景が広がった。


タラタラと汗をかき、後悔が自分の中に充満していると、左の窓がウィーンと開いて、運転席らしきものが見えた。(ゲッ…左ハンドル、外車かよ)


「おいガキ、なにしてんだテメェ」


片目が眼帯の、男の俺から見ても見とれる程の男前が機嫌悪そうに車内から俺を睨んだ。


「ぁ…す、すみませんっ!あの…ちょっとボーッとしてて…」


言うと、車の人は舌打ちをした。


「す、すみません…」


ビクビクしながら再び謝っていると、信号が青に変わる。


「…おい、お前そのチャリ隅にでも置いて、車に乗れ」


「え…」


「こんな所であーだこーだ言ってたら他の奴らの通行の邪魔になんだろ。
場所変えるんだよ。早く乗れ」


「あっ、は、はいっ」


立場上、逆らえる訳もなく、俺は邪魔にならない様な場所を選び自転車を置くと、言われた通りに車に乗り込んだ。


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