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□鬼は臆病者に恋をした
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[side 銀時]
いきなり土方に抱き寄せられる形で、俺達は密着した。
「頼むから、泣くな」
土方の右手は俺の頭に優しく触れていて、左手は俺の背中を ぽんっぽんっ、と、まるで幼子をあやすかの様に軽くたたく。
暫くそのままで、ドキドキと高鳴っている土方の鼓動を聞いていると、やがて俺は落ち着いた。
そんな頃を見計らったのか、土方が口を開いた。
「………お前さっき、欲しいと思ったものは、自分のものにならないって言ったよな?」
………そうだよ。
いつだって、そうだ。
「お前は…俺が欲しいのか?」
欲しい、けど……、
今さらそんな事言ったって、もう どうしようもないんだろ?
そう思いながらも、
「……ん」
肯定の言葉を短く口にしながら、コクンと頷いた。
すると、土方の、俺の頭に触れていた方の手も背中に伸びてきて、かと思った瞬間、俺は力強くギュッと抱き締められた。
「俺は、お前の過去を知らねぇから、お前の親や、先生って人の事は分からねぇ。でも、この先の未来は断言してやれる」
「………………ぇ?」
「俺はとっくに銀時(おまえ)のもんだ。だから安心しろ」
………え?
「言っておくが、俺は嘘なんかついちゃいねぇぞ?宣言通り、絶対にお前を諦めるつもりはねぇ!言ったろ?嫌だって抵抗するなら、無理やり犯すって。
そんな物騒な事、お前を好きじゃなきゃ言えねぇっての。
俺は、今もこれからも、この先なん十年経ったって、死ぬまで ずっとずっと、一生、坂田 銀時が好きだ。愛してる」
「っ………ぅ、嘘、だ…」
「嘘じゃねぇよ」
「だって………、お前…結婚、するんだろ?」
「しねぇよ」
……え?
あまりにも簡単にハッキリと即答する土方に、俺はなんだか拍子抜けしてしまった。
だって…じゃあ、あの噂は?
何の反応もしないその間に、俺の思っている事が伝わったのか、土方は付け加える様に続けた。
「…なんつうか、噂の全部が間違いって訳じゃないっつうか……。その…まぁ…確かに見合いは、した。断りきれなかったんだ、上司が強引に拳銃使ってまで見合いしろって脅してきて…」
「っ… (え?) 拳銃って!大丈夫なのかよ?それ」
土方の思わぬ言葉にパッと顔を上げると、とても穏やかな顔をした土方と目が合い、何だか照れくさく感じてしまったが、土方は気にせず続ける。
「大丈夫だから俺は今こうして銀時の前に居るんだろ?」
「…う、うん」
「まぁ、見合いはしても、最初から断るつもりだったから…。流石にクビはねぇだろうと思ってたが、もしかしたら…、降格はあるかもって覚悟してた」
「っ……ぇ?」
「由緒ある家柄の令嬢との見合いを、最初(はな)っから受けるつもりもねぇのに断る前提ですんだ。当然と言えば当然だろ?
だって仕方ねぇじゃねぇか。
例え副長の座を総悟に奪われる事になったって、例え真選組での立場を失う事になったって、例え左遷されたって、
まぁ男同士だから出来はしねぇが、結婚なんてよ、好きな奴じゃなきゃ…銀時とじゃなきゃ、したいと思えねぇんだから」
キュン、と した。
土方はそんなにまで俺の事を想ってくれていたのかと、胸が締め付けられ、それでも、嬉しくて嬉しくて嬉しくて、泣いちゃいそうになる。
「……いっぱい怒られたか?
拳銃の上司の人に。あと、お前…左遷、させられちゃうの?」
もし、俺のせいで本当にそんな事にでもなったら、俺は土方に何と詫びればいいのだろう?
だって、土方にとって真選組がどれほど大切な場所なのか、俺は知っているつもりだ。
不安な気持ちを隠しきれず聞くと、土方は俺を安心させる様に穏やかな表情で微笑み掛けた。
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