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□鬼は臆病者に恋をした
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前編
ある日、江戸に広まった噂。
なんでも真選組の副長がどこぞの金持ちの一人娘と見合いをし、その縁談がまとまり、近々結婚をするらしい。
その噂を聞いて、俺は少し驚いた。だって、その副長さんは、同じ男である俺に何度も求愛し、その度に俺に振られていたからである。
なんだ…アイツ、ちゃんと女もイケるんじゃねぇか。
見向きもしない俺なんかをいつまでも追いかけてねぇで、ようやく他に目を向けたのか。
…と、ぼんやり思いながらも心のどこかで酷くショックを受けてる自分がいるのに気づく。
いや、いやいやいや。
なに?ショックって。
まさか、自分は土方の気持ちに応えるつもりも無いのに、そのくせ自分の事はいつまでも想っていて欲しかったとでも?
…あぁ、そう、だったのかも。
なんて都合のいい考えだ。
俺は男だから同じ男とは付き合えない。とか潔癖な事を言うつもりは無い。今まで男と‘そういう関係’になった事が、無かったわけじゃなかったし。
ただ、あれは恋愛とは言わなかったと思う。攘夷時代、周りに女っ気がなく、ただ、性的欲求を発散する為だけの行為だったと言ってしまえば、それまでだけど、でも、確かにあれは恋愛とは どこか違っていた。
ガキの頃から一緒の幼なじみの高杉やヅラ、戦争に参加してから知り合った坂本なんかと‘寝た’のも一度や二度じゃない。
でもアレは、戦争という異常な環境が生み出した‘あやまち’の様なもの。
毎日毎日、敵を斬って斬って斬って、それでも仲間は死んでいって…。守り切れなかった悔しさ、苛立ち、虚しさ。
そんなものも埋める為に、
一時(いっとき)でも快楽で忘れさせて欲しくてセックスをしていたのかも知れない。
だから、男と、って事に関しては嫌悪感など無い。
じゃあ俺は何で土方の事を振り続けてたかって言うと……。
なんでだろうな、……うん、きっとアレだ。気分が、良かったからかも知れない。
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