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□鬼は臆病者に恋をした
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最初は、気にくわない相手からの告白に、会えば必ずと言っていい程、毎回ケンカになっていたはずの相手からの告白に、冗談じゃないって思った。
もしかしたら、新手の嫌がらせなのでは、と思った。俺がその気になった所で嘘だと笑ってからかうつもりなのでは、と。
でも、そんなんじゃないと言うのはすぐに分かった。会う度に顔を赤らめ、照れた様子で、それでも真剣にまっすぐ俺の目を見て好きだと言ってくる土方に、コイツは嘘はついてない。
コイツの想いは本気なんだと嫌でも伝わってきた。
まぁ銀さん程じゃないけど顔が良くて、そんでもって女にめちゃくちゃモテモテで、鬼の副長と恐れられてるあの土方が、必死で俺を口説こうとしている。
…その事実が気分良かった。
優越感ってやつ?
好きだって、付き合って欲しいって土方に言われる度に、ごめんって俺が断ると、シュンッて悲しげに落ち込む土方が可愛くて、その姿が何度も見たいって気持ちになった。
土方の想いを試す、って訳じゃないけど、何度振ろうが何度でも俺への変わらぬ愛情ってやつを示す土方が嬉しかった。
俺はただ、自分に自信が無かっただけなのかも知れない。ただ、臆病者なだけだったんだ。
自信が無いから土方の想いを受け入れるのが怖かったんだ。
俺は、俺も、土方の事を、きっと、とっくに好きだった。
あれ程までに強く求められた事がなかったから、それを見て、振られ続ける土方の気持ちも考えずに楽しんでたからバチが当たったんだ。
「……なんだよ、土方くんのバーカ。俺の事が、好きなんじゃなかったのかよ…。結婚って……、なにそれ…。
俺が落ちるまで何度も何度も言い寄って来いっつうの…」
こんな事になってから自分の気持ちに気付いた愚かな俺には、そんな事を言う権利などありはしないのに。
‘万事屋が好きだ。付き合って欲しい。何度フラれようが何度だって言う!俺は坂田 銀時が好きだ!絶対に諦めねぇ!’
「……土方くんの嘘つき」
俺の情けない呟きは、誰の耳に届くでも無く、
やがて空気に溶けて消えた。
中編へ つづく