金色のコルダ


□渇望
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前編




「あ、お兄ちゃん、お帰り」


「………香穂子」


「え?あっ、ごめん。蓮くん…でした」


星奏学院の音楽科に通う兄、月森蓮。その妹である、同じく星奏学院、しかしこちらは普通科に通う月森香穂子。
実はこの二人、血が繋がっていない義理の兄妹である。


香穂子の父親は香穂子が生まれる前に交通事故で他界。そして、元々、体が弱く健康ではなかった香穂子の母親も、愛する夫が逝ってしまった後に妊娠している事に気付き、これは神様からの贈り物だと、自分がどうなろうとも赤ちゃんをどうしても生みたいと、両親や友人など周りの賛成を得られないまま出産。直後、帰らぬ人となった。


そして、蓮と香穂子、二人の母親同士は親友だった。


養子として香穂子を引き取りたいと言った蓮の母親の言葉に、彼女もまた蓮を生んだばかりで大変な時なのだからと、こちらも周りから反対をされた。しかし、彼女の強い意思と、夫である蓮の父親の賛成と、なにより、亡くなった香穂子の母親の、もしも、自分がいなくなったら、赤ちゃんを蓮の母親に託す約束を出産前に密かにしていた、という、それを二人が心から望んでいると言う手紙が残されていた為、香穂子の祖母、祖父も最終的には首を縦に振ったのだ。


時が経つのは早いもので、それから17年。蓮と香穂子は両親から何の隔たりもなく本当の兄妹のように愛されて育ち、高校2年生に成長していた。


しかし、いつからだったか、兄は妹に自分の事を「お兄ちゃん」と呼ぶな、と強要した。


いや、香穂子は、いつからか、は、何となく覚えている。確か中学生の頃からだ。その切っ掛けとなったのは、順序立てて説明するとなると、小学生、低学年の時までさらに遡る。


家族に自分の誕生日会をやってもらっていた時、ふと、どうして蓮と自分は同い年の兄妹なのに誕生日が違う日なのか、と香穂子は両親に質問をした事があった。


その時、本当はもう少し大きくなってから打ち明けようと思っていたんだけど…、と、両親に真実を伝えられた。


驚き、動揺しまくる香穂子とは違い、蓮は妙に冷静だった。


成長していくにつれ、同い年の兄妹で誕生日が違うという意味を何となく‘そう言う事’なのだろうと思っていたからだ。
どちらかが実の子供ではないのかも知れない。母と父、両親のどちらとも香穂子はあまり似ていないと感じていた蓮は、自然と香穂子が月森の家の血を引いていない、と予想していたのだ。


例え血の繋がりがなくとも、私達は本当の家族だ。貴女の事を心から愛している。それはこの先、ずっとずっと、何があろうと変わる事はない。
と、そう言われても、香穂子はやはりショックだった。


目を真っ赤にしてしゃくり上げながら泣いて、その日は誕生日どころではなくなってしまった事を香穂子は今でも覚えている。


しかし、蓮はと言うと、ショックなど微塵も感じていなかった。


妹と本当の兄妹ではなかった。血は繋がっていなかった。


その事が蓮は堪らなく嬉しかった。


ドキドキと胸が高鳴り、気分が高揚した。それは、蓮が香穂子の事を好きだったからだ。


今まで、妹の事が可愛くて可愛くて仕方ないと思っていた。どうやら自分にはシスコンの気があると思っていたが、それは勘違いだったようだ。


自分は、香穂子の事を妹として、家族愛で好いていた訳ではない。ひとりの女の子として、恋愛感情での好きという気持ちを向けていたのだ。蓮がそう自覚したのはその時だ。


気づいたからには蓮の想いは止まらなかった。


もう少し互いに身も心も大人になり‘既成事実’が作れるようになったら…。将来、何としても必ず香穂子を手に入れてみせる。自分の物にしてみせる。と、蓮は自分の少し歪んだ感情に気付きながらも香穂子を逃す気はサラサラなかった。


それまでは良い兄を演じると小学生ながらに誓ったのだ。


いくら義兄妹と言え、所詮は他人。血が繋がっていない事は本人だってもう分かっているのだ。思春期にもなれば、ひとつ屋根の下に血の繋がらない男と女が毎日、一緒に過ごすという事を意識しないなど、その方が難しいかも知れない。


事実、自分の想いのせいもあるのだろうが、蓮は成長するにつれ、日々、香穂子を邪な目で見ていた。卑猥な妄想が止まらないのだ。


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