幼少時代です。
落ちは特にない。山場も特にない。落ちはない(大事なことなんで2回言いました)
「ねぇねぇ松陽せんせい」
「なんですか?銀時」
「おれねぇおれねぇ、大きくなったら、せんせいと結婚する!」
「………え」
銀時の口から出てきた言葉に松陽は一瞬フリーズ。
「だってね、だってね、結婚は大好きな人とするものなんだよ!ってヅラが言ってた!」
ウキウキした様子でそこまでを言うと、銀時はほんのり頬を桃色に染め、照れっと小首を傾げ、なんとも可愛らしい仕草をする。
「あのね、あのね、おれ、せんせいの事が大好きだから、だからせんせいと結婚するの!」
銀時の気持ちは嬉しい。とても嬉しいが…、松陽は困ったように苦笑する。
ここは笑って、ありがとう。私も銀時が大好きですよ。と、返すべきだろうか?それとも、ここは大人としてちゃんと間違いを正すべきだろうか?と、松陽は短い時間で悩みに悩み、そして後者を取った。
「銀時、それは…無理なんですよ」
すると、そんな松陽の言葉を聞くやいなや、銀時は瞳をうりゅっと潤ませる。
「なんで?松陽せんせい、おれのこと、きらい?」
悲しそうにぷるぷる震える銀時に対し松陽はすかさず訂正する。
「そうじゃありません!私だって銀時の事が大好きですよ?」
「………だったらいいじゃん。おれが大人になったら結婚しようよ。おれ、強くなるよ?今よりも、もっともっと強くなって、松陽せんせいの事、ぜったい守るよ?」
「銀時…」
そんな銀時に、松陽はグラグラと大きく心を揺すぶられる。
あぁ、いとおしい。この子が、とても。
「えぇ。私もそう思います。そして信じています。あなたは、きっと強くなって、大切な人を守れる人に成長してくれると」
「だったら良いじゃん!結婚しよ?」
………だが、それとこれとは別問題だ。
「いえ、ですからね?そもそも、好きだとかそうじゃないとか、そういう問題じゃないんです」
「……?」
小動物のような仕草で銀時は小首を傾げハテナマークを頭上に浮かべた。
そんな何とも愛らしい銀時の誘惑に、再びグラッと心を揺すぶられ負けそうになりながらも、松陽はグッと心を鬼にし真実を伝える。
「私も銀時も男です。同性同士で結婚は出来ないんですよ」
松陽の言葉を、言われてすぐは理解できなかったのか、ぽかんとしていた銀時だったが、徐々に理解していくと、眉を八の字に下げ、ウルウル瞳を潤ませ、そこに涙を溜めた。
涙を流すまいと必死に耐える姿は、松陽の庇護心をどうしようもなくかき立てる。
「じゃあ…じゃあ……」
銀時は頭をフル回転させる。と、思い付いたといった顔をした。
「おれ、女になる!」
「え…」
「銀子でも銀美でも何でもいいから、おれ今日から女になる。そしたら、おれ、せんせいと結婚できる?」
最後の方は恐る恐る、といった様子で聞いてきた銀時に、松陽はついに負けた。
負けたどころか 松陽はそこまでして私の事を?と、ジーンと感動すらする。
銀時はまだ子供だ。なにも今から本当の事を伝える必要はないのかも知れない。それに、大人になるにつれ、結婚なんてそんな考えはなくなっていくだろうし。
好きでいてくれる事は嬉しい。しかし、その好きがどんな意味での好きなのか、まだ幼すぎて銀時には分からないのだろう。
本当は、銀時の私を思う好きは、結婚に結び付かない好きなんですよ、と説得をするつもりだったのだが、松陽はそれを諦めた。
「銀時、ではこうしましょう。あなたが大人になった時、まだ私と結婚がしたいという気持ちで居続けていてくれたのなら、その時は私も銀時との結婚を前向きに考えます」
「っ…本当!?」
銀時は松陽の提案にパァッと顔色を明るくする。
「えぇ、本当です。それに、銀子にも銀美にもなる必要はありません。銀時は銀時のままでいいんですよ?」
「いいの?でも、男どうしじゃ結婚できないんでしょ?」
「大丈夫です。銀時が大人になるまでに何年も何年もあるんですから、その間に法律も変わっているかも知れないでしょう?きっと何とかなります」
松陽のそんな言葉に、銀時はうーん、うーん、と分からないなりに一応考えてから、うん!と頷いた。
「せんせいがそーゆーならきっとだいじょぶだね。じゃあ待っててね?すぐ大人になるからね!?そしたら結婚ね!約束ね!?」
それはそれは嬉しそうに興奮ぎみで喋る銀時に松陽は目尻を下げ、頬を緩める。
「はい。約束です」
松陽が右手を銀時へと差し出し小指を立てると、銀時はそれに自分の小指を絡ませた。
「じゃあじゃあ、せんせいは今、おれの婚約者になるんだよねっ!?」
「おや、よくそんなこと知ってましたね?」
「これもヅラが教えてくれた!結婚を約束した時から本当に結婚するまでの間を、婚約中ってゆーんだって!
本当はね、婚約ゆびわってゆーのを贈らないといけないらしいんだけど…でもおれまだそんなもの買えないから、だから‘これ’代わりね。婚約の証!」
言うなり、銀時は松陽の顔に自分の顔を近づけた。と思ったら、
────ちゅっ
可愛らしいリップ音をさせ、銀時は松陽の唇に自分の唇を重ね、口づけを贈った。
「っ……ぎっ銀時!?」
思わぬ出来事に松陽は目を丸める。
「えへへ。ゆびわは無理だけど、でもおれのファーストキスはあげられるからさ。これがせんせいとおれの婚約の証ね!」
ニコニコ笑顔の銀時に松陽も驚きつつ、しょうがない子ですねぇと微笑みを返す。
実は今の銀時と松陽のやり取りを、銀時に想いを寄せる高杉に全て見られていて、大好きだった松陽の事を高杉が嫉妬から少しだけ、いや、この時は実はかなり嫌いになった事を、松陽は知らない。
「 (…ちゅ…ちゅーが…銀時のちゅーがぁぁあああ!!しかもっ…口と口とか……
くそっ!ヅラの野郎、銀時に余計な事を教えやがって…、とりあえず後でシメる) 」
【end】
(あとがき)
アニ銀の一国傾城篇を見てたら無性に松銀が書きたくなった。松←銀?とも思ったけど、いや!これは松銀と言い張ります!!
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