Novel
□潜在者奇譚
1ページ/28ページ
二重人格というものがある。
初め、自分はそれかと思った。
物心ついたときから「ソレ」は自分の中におり、何かこう、戸惑いゆえに苛立っている感じだった。
だが、普段の「ソレ」は穏やかな物腰で語りかけてき、更には図書館の本全てを暗記しているかのような知識を持っており、予防接種の注射が怖く寝つけない、そんな夜にはいろんな話を聞かせてくれた(それがギリシャ神話やケルト神話だと知ったのはずっと後だった)。
ふと、漠然とした不安と恐怖が形を成してきたのは今年の夏、そう高校生活最後の夏休みに入った直後だった。
「ソレ」は困ったときに相談すれば即座に的確な解答をしてくれ、テストでも、先生や友達への対応にも、こづかいのやりくりでさえも「ソレ」に聞けばすんなりうまく、万事OKなのだ。
いつしか親友のような父親のような奇妙な親近感を持っていた「ソレ」にチクリと疑惑が湧き起こった。
これだけの知識と経験(を持ってるとしか思えなかった)のあるソレ」が自分のなかでじっとしていて、ただ好々爺のように自分にホイホイと助言をしてくれるだけの存在なのだろうか?そもそも自分はいつしか「ソレ」のいいなりに人生を送ってきたのではないだろうか?
駒場 渉(こまば わたる)は初めて「ソレ」について深く考えた。