Novel
□潜在者奇譚
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うだるような暑さが続く熱帯夜、駒場渉は借りてたDVDをレンタル店に返却し、駐輪場で自転車の鍵をジーンズのポケットから探りだそうとしていた。
夜の八時過ぎとはいえ駐輪場は半分程埋まっており、自分と同じ年齢とおぼしき男女数人が輪をつくり、テレビCMのモノマネ(結構似ていたので不覚にも渉は吹き出しそうになった)で盛り上がっていた。
そのとき背後から声をかけられた。
「あのぅ・・・駒場渉くんだよね?」
振り向くと見知らぬ男性二人が立っている。
見たところ自分と同じ年頃の青年達で、右側のはひょろ長く180はありそうだった(ミスチルの桜井に似てるな、と渉は思った)。
左側のは自分と同じ背格好で、薄く顎髭を生やしている(コイツは浅野忠信に似ていた)。
「あの・・・どちらさまですか?」
こういう場合、「ソレ」に聞く習慣が染み付いてしまっていたが最近はなるべく自ら対応しようと努めてきた。
二人はお互い顔を見合わせ、ゆっくりとこちらを向いた後、桜井似の青年がこう言い放った。
「きめりうす」
しばしの沈黙。
傍らをOLらしき女性がケータイを片手に自転車で通り過ぎてゆく。
二人はじっとこちらを見ていた。