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□ちかくて、とおく
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この前屋上でサボっていたら宍戸もサボりに来たらしく、授業が終わるまで話した。


宍戸がいきなりこんな事言うから、少し驚いて、俺はなやんだ。


「お前って好きなやついねぇの?」


『え?』


考えてみれば、今まで好きなやつなんていた覚えがない。


『宍戸は?』


「俺はいねぇな、今はテニスが1番だからな」


『ふーん、テニスばか』


そんな話しをした後の授業なんてめんどくさかったから、次の授業もサボった。

そしたら次はジローが来て俺の隣に座った。


「がっくんさぼり?」


『ジローもな』


にまにま笑って、今にも寝ちゃいそうな目をこするジロー。


『ねむいのか?』


「…うん、きょうはてんきがいーねぇ」


『そーだな』


「ねぇねぇ、がっくん好きな子いないのー」


『えー』


またかよって顔でジローをみた。

だけどジローはふわふわして目をこするだけ。


「俺はねーがっくん好きだよー」


『なんだよ、いきなり』


ジローの言葉に笑みがこぼれる。

俺もジロー好きだよって付け足す。


「がっくん好きな子、他にいるでしょー」


『え?』


「俺ほんとにがっくん好きだよ」


眠そうな目はいつの間にか真剣な目に変わっていた。

「だからわかるよ」


黙っていたら、授業が終わった事を知らせる鐘がなった。

ジローは立ち上がり、じゃあ部活でねーって頭を掻きながら出て行った。


俺はまだ屋上から出られないでいた。


帰りのHRが始まった。

掃除が始まった。

部活が始まった。


やっと自分の教室に戻り、鞄を持って外に出る。


ジローの言葉が頭から離れない。

好きな、人。


『…そんなの、いねぇよ』

「やっとおった」


後ろをみれば、侑士が笑っていた。


「クラス行ったんやけど、みんな知らんて」


『ずっとサボってたから』

「なんや、いなくなったかと思ったやろ」


部活行こか、侑士はそう言って背中を押す。


『…なんだ、近くにいんじゃん』


「ん?なに」


『なんでもっ』


侑士が笑うから俺もつられて笑ってしまう。




ちかくて、とおく




なんだ、ほんとにいた。
俺の好きなやつ。


気づいたのは、おとといの話。




ちかくて、とおく
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