T&B

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シュテルンビルト内、とある高校

欧米人が多いこの学校で、黒髪黒目はけっこう目立ったりもする。
制服のシャツとネクタイをきちっとし、更に授業中には眼鏡もかけている。
目立たないさ、これで変に目だったりはしない。
完璧に落ち着いた優等生スタイルだ、と英は心の中で思った。
実はその完璧スタイルが、女子から好意を含む目で見られている原因だなんて、彼は思いもしない。
何故ならここが日本だったら地味な奴、と言われて終わりだからだ。

「英、」

「ん、あぁカリーナ。」

「これ、ありがとう。」

同級生で同じクラスのカリーナ・ライルが、英に声をかける。
英が友人との会話を中断してカリーナに目を向けると、彼女の手には映画のパッケージがある。
でかでかと“忍っ!!”と書かれているそれは、英が日本の友人から貰ったものだ。

「喜んでいたわ。この映画、輸出されなかったのね。」

「なんか制作者側と配給側がもめたらしくて。でも、このディスクは英語字幕も選べて良かったよ。」

「ジム仲間が“ありがとう”って。」

「いえいえ、どういたしまして。」

この映画はカリーナが観たくて借りたのではない。
カリーナの“ジム仲間”に貸すために借りたのだ。
ちなみに、その仲間というのは何気なく聞いたところ男らしい。
その後に少しだけ、貸すのを躊躇ったのは彼だけの秘密。
始業のベルが鳴り、カリーナは自分の席に戻っていった。





「なぁ、英!」

「んあ?」

お弁当の卵焼きを頬張りながら、英が顔をあげる。
英にニコニコと話しかけるのは、彼の親友でもあるフレデリック・ベルマン(通称フレディ)だ。
綺麗な碧の目をキラキラさせている。

「昨日の“HERO TV”観たか!?」

「そう来ると思ったよ。観たに決まってる、バッチリな!」

“HERO TV”
シュテルンビルトで大人気の番組だ。
シュテルンビルトには、七人のヒーロー達がいる。
彼らは企業に所属し、それぞれのスポンサーの名前を背負ってシュテルンビルトにいる悪と戦う。
“KOH(キングオブヒーロー)”スカイハイ。
“ヒーロー界のスーパーアイドル”ブルーローズ。
“稲妻カンフーマスター”ドラゴンキッド。
“西海岸の猛牛戦車”ロックバイソン。
“見切れ職人”折紙サイクロン。
“ブルジョワ直火焼き”ファイアーエンブレム。
そして“正義の壊し屋”ワイルドタイガー。
彼ら七人が、シュテルンビルトを守るヒーロー達である。
ヒーロー達は全員が“NEXT”と呼ばれる超能力者である。
ちなみに、英やフレディは彼らのようなNEXTではない。
英が生まれる前は、NEXT達はその異能力のせいで差別なんかもあったりしたそうだ。
現在のヒーロー人気からは考えられない。
テレビの向こう側で戦う彼らは、英の目には遥か彼方の存在に思えた。


「やっぱりスカイハイが一番だよ!何て言ったってキングだからな!」

フレディが興奮して話すたびに、彼の口から何かが溢れる。
とりあえず飲み込んでから言えと英が言うと、フレディは持っていたバケットサンドを一気に食べた。

「英贔屓のワイルドタイガーは信号へし折ってたな。」

「あぁ・・・今回のランキングもきっと駄目だな。」

「前から思っていたけど何でワイルドタイガーファン?」

ジュースを啜るフレディが英に尋ねる。
弁当箱を片付けた英は、少し考える仕草を見せてから「秘密」と言った。
フレディは不満足そうに異議有りと言ったが、それも予鈴に被されて消えた。
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