T&B

□ストーカー編いち
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休日のショッピングモールにて
英と彼の妹である桜は一緒に買い物をしていた。
両親からお小遣いをそれぞれ貰い、欲しい服などを選んでいる。
とは言っても、英は来たときからずっと桜に振り回されている。
正確には“桜の”欲しい服を選んでいるのだ。

「お兄ちゃん、これどう?」

試着室から出てきた桜が着ているのは、花柄のシフォンチュニックにジーンズのショートパンツだ。
更にバックやシューズも揃えて、所謂全身コーディネイトである。

「おぉ、いいじゃん。似合ってる。」

「もっとないの?“可愛い”とかさぁ!」

「“似合ってる”でも十分だと思うのは俺だけか?」

「女心が分かってなーい!」

「えぇ!?」

「あ、こっちのパーカーも買っちゃお!」

「桜無視しないで!」

「このワンピースも可愛い!」

ぽんぽんぽん、と次々に英の腕の中に服が乗せられていく。
一体何着買うつもりなのだろうか。
嬉々とした表情で服を選んでいる桜の横顔を見て、まだ自分の買い物は出来そうにないと英は悟った。



約二時間後

「じゃ、次はお兄ちゃんの服ね!」

英に荷物を持たせ、桜はどんどん店舗内を進む。
英が財布を確認したら、桜は限度額オーバーをしていなかったのが驚きだ。
聞けば、安くて可愛いが彼女の信条とのこと。
引っ張られるがままに英達が入ったのは、シュテルンビルトでも人気のショップだった。

「お兄ちゃんって、ザ・優等生って格好だよね。いつも。」

「うん、まぁそれが目標だから。」

「でも地味すぎよ!今日は私がかっこよくしてあげるからね!」

「えー」



最後に本屋に寄って、買い物はほぼ終了だ。
後はドーナツ屋に行って、両親へのお土産を買ってお茶を飲んで帰宅する。
本屋に入ると、英はすぐに料理のテキスト本のコーナーに向かう。
気になる本を手に取りパラパラと捲ってどんなメニューがあるかを確かめる。
もちろん、バランスの取れた献立かどうかも要チェックだ。
彩り鮮やかな料理やお菓子が並ぶテキスト本を読むのは英の密かな楽しみであった。


「あ、お兄ちゃん。私これにするね。」

「ん。桜、これとこれからだったら、どっちの方が食べたい?」

「えーっと・・・んーっと・・・こっち!」

「オーケー、じゃあ買ってくる。」

「私、ドーナツ屋さん行ってていい?」

「おう、いいぞ。」

桜とはドーナツ屋で落ち合うことを約束して、英はレジに向かった。
休日と言うこともあって、レジには列が出来上がっている。
英が最後尾に並ぼうとした時、ドンと体がぶつかった。
直後、本の落ちるばさばさという音が。

「うわ、ごめんなさい!」

「いいえ、私が余所見していたから。」

反対側から歩いてきた女性とぶつかってしまった。
床に散らばった本を急いで拾い上げる。
新書に文芸書、単行本も多数。
こんなに多ければ、女性にはきっと重かったはずだ。

「よいしょっと。」

「あの、」

「レジに並ぶところだったんですよね?
この本レジまで運びますよ。大変だったでしょう?」

「そんな、悪いですよ・・・」

「ぶつかったお詫びです。」

そう英が言うと、女性はペコリと頭を下げて「お願いします」と言った。
悪いのは、ぶつかってしまった英だ。
落ちた本が傷んでいないといいのだが。
英は女性の本をレジに運び自分の買う分も会計を済ませる。
もう一度女性に謝ってから本屋を後にした。





「かっこよくて、優しくて、紳士的で・・・」

私に気づいてくれた人。

「見つけたわ、私の王子様・・・!」

ショッピングモールから荷物を抱えて出ていく英の後ろ姿を、深い水色の目が追いかける。



英ははふと視線を感じて後ろを振り向いた。

「お兄ちゃん?」

「いや、今誰かに見られていたような・・・」

「ヤダお兄ちゃん、被害妄想!」

「違いますぅー!」

気のせいだったか、と英は気にせずまた前を向いて歩き出す。
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