T&B
□ストーカー編に
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今一番会いたくない奴に会ってしまった。
「お疲れ、カリーナ。」
玄関には、リェナを待っている英がいた。
何だかそわそわしている気がするのは、きっと気のせいなんかじゃない。
妙によそよそしい英の態度がカリーナの神経を逆撫でする。
「・・・彼女を待っているのね。」
「え、あぁ、うん。約束したから、ちゃんと。」
「へぇ、そう。可愛い女の子とのデート、楽しんできてね。」
ついっ、と顔を背けてカリーナは足早にその場から去った。
あぁもう、イライラする!
無性に誰かに八つ当たりしたい気分になってくる。
トレーニングジムに行って、思いきり体を動かしたい。
「おい、カリーナ!?」
英はカリーナに手を伸ばすも、それが彼女に届くことはなかった。
カリーナの言葉の一つ一つに棘があったことから、彼女が不機嫌なのは一目瞭然だった。
「お待たせしました。蔵前君?」
「へ?あぁ、うん。」
可愛らしい声と一緒にツンツンと控えめに肩をつつかれる。
リェナは英を待たせていたことに気づき、慌てて頭を下げた。
「ご、ごめんなさい!遅くなってしまって。」
「気にしなくていいって!」
「ふふ、やっぱり優しいんですね。」
「やっぱりって・・・?」
「いえ、何でもありません。
行きましょう。紅茶が美味しいお店、私知っているんです。」
「おい、何でブルーローズはあんなに不機嫌なんだ?」
「女の子には色々あんのよ。」
ジャスティスタワー内、ヒーロー専用トレーニングジムにて。
いつも以上に黙々とトレーニングに取り込むブルーローズことカリーナの姿に、同じヒーローのワイルドタイガーこと鏑木虎徹が若干の恐怖を覚えていた。
同じくヒーローのファイアーエンブレムことネイサンは、カリーナの気持ちを汲んだのかやれやれと頭を振る。
「はぁ、色々ねぇ・・・俺にはわかんねぇや。」
「まぁそうでしょうねぇ。」
「何だと!?」
「うるさいですよおじさん。静かにしてください。」
虎徹のバディであるバーナビー・ブルックスJrが呆れ顔で言った。
みんなして俺を馬鹿にして、と虎徹は口を尖らせる。
「女性には色々あるんですから、不躾に詮索するのは良くないと思いますけど。」
「あらぁん、ハンサムってば分かってるじゃない!」
「ケッ」
トレーニングジムにスカイハイことキース・グッドマンがやって来た。
わいわいやっている三人が楽しそうだなと思いながら見ていると、ひたすらトレーニングしているカリーナが目に入る。
初めに言っておけば、キースは物凄く天然である。
だからキースには、カリーナの鬼気迫る雰囲気など感じ取れるはずもない。
カリーナは市民を守るために鍛えているのだと一人納得して、うんうんと一人頷いた。
実際は今はやり場のないイライラをトレーニングにぶつけているだけなのだが。
(素晴らしい、実に素晴らしいぞブルーローズ君!)
「やぁブルーローズ君!
今日は一段と張り切っているね!」
(今のブルーローズに話しかけるなんて!)
(や、やべぇぞバニーちゃん、伊達に)
(キング・オブ・ヒーローじゃないってことですね。それから僕はバニーじゃありません、バーナビーです!)
臆することなく満面の笑みで話しかけるキース。
ネイサン、虎徹、バーナビーはカリーナが鋭い目をしていたのを見逃さなかった。
「市民を助けるとき、いざという時には日頃の鍛練が物を言う!私も負けていられないな!」
「“負け”・・・?」
“負け”という言葉に、カリーナがピクリと反応する。
「ん?」
「私が、あんな女に、」
負けてたまるかあ!!!
ひやりと頬を撫でる冷気に、キースもこれは何か可笑しいと気づく。
尋ねようとしたとき、その肩を虎徹が叩いた。
「ワイルド君、ブルーローズ君は一体」
「あー、今はそっとしておいてやれ、な?」
「恐らく噂の“彼”が原因ですね。」
「そうねぇ、最近は良い感じだって言っていたのに。」
恋の嵐の予感がするわぁ、とネイサンは呟いた。