過去拍手

□怪談
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夏もまだまだなんだしね、ちょっと背筋がぞくっとするお話でもどうぞ。
黒バス黄瀬君です。ネットで見つけたぞくっとしたお話が元ネタです。




「ふぎゃあああ!!」
「ちょっと、涼太君うるさい。」
「いやだってだって!」
「集中できないじゃん。黙って。」

真夏。うんざりするほど暑い夏の夜の定番と言えばこれしかないだろう。つまり、幼なじみの涼太君が騒いでいるのは何かと言えば、ホラー番組である。視聴者の実体験を元にした、ノンフィクションの皮を被ったフィクションドラマが放送され、暇つぶしにちょうど良いと思ってこのチャンネルにしている。私の家と涼太君の家はマンションのお隣さん。夕食を一緒に取るついでに、一緒に鑑賞しているのである。ちなみに、私たちがいるのはリビングで、ダイニングには両親が食後のお茶をたしなんでいた。

「涼太君嫌がってるじゃない。チャンネル変えてあげたら?」
「だって他の番組つまらないし・・・」
「うわあああ!出たあああ!」

ばっと女優さんの後ろから現れたお化けの姿に涼太君がまた絶叫する。私はこういうシーンを観るといつも萎える。視聴者からの実体験を元にしているのに、どうやったら後ろでお化けに見られていることを知ることが出来るんだ。テレビの前の視聴者を驚かせたいというスタッフの意図が丸見えで萎える。そんな風に考えてしまう私は、きっと可愛くない女の子だろう。

「涼太君いろんな意味で大丈夫?もう高校生なのに、そんなに叫んじゃって・・・」
「誰のせいだと思ってるんすか!もう!」
「まあまあ。あ、アイスでも買いに行かない?」
「このタイミングで!?まあ(テレビから離れられるなら)いいっすけど。」
「じゃあ行こうか。」

お財布を持って、両親に行き先を告げて玄関から出る。涼太君はホラー番組の影響のせいで、私の半歩後ろにくっついて歩いていた。正直、暑い。涼太君ファンの女の子から見れば羨ましいと思われるのだろうけど、生憎涼太君に対してそのような感情を抱いたことはない。イケメンの幼なじみがいる、というのは少し自慢だけど。
とにかく目的のコンビニに着き、私と涼太君は好きなフレーバーのアイスを購入した。家で待っている両親の分にと思ってバニラアイスのカップも買った。コンビニからマンションまではそれほど遠くなく、私と涼太君は雑談しながらゆっくり歩いていた。外灯がチカチカと点滅する。涼太君は、少し恐怖が無くなったのか行きよりも平気そうな顔をして歩いていた。

「俺、お化けとか無理なんすよ・・・」
「意外ではないよね。」
「言い方酷いっすよ、も〜」

マンションのエレベーター前に到着する。昇りボタンを押せば、すぐにエレベーターは到着した。階は十階。先に乗り込んだ涼太君が、ドアを押さえながら“10”のボタンを押した。

「まだ番組続いているよね。」
「もう別の番組にしようよ〜」
「全く・・・情けないね、涼太君。」

ゴウンゴウンと音を立てて、エレベーターがゆっくりと上昇する。エレベーターの壁にそっと背中を預けたとき、階のボタンが一個余計に点灯していることに気がついた。

「・・・涼太君、ボタン押した?」
「十階の?もちろん!」

涼太君の明るい返事とは裏腹に、私は背筋が凍るのを感じた。ボタンのすぐ横に立っている涼太君を押しのけて、階のボタンを全て押す。私の行動に、涼太君は終始首をかしげていた。チーン、と暢気な音が鳴ってエレベーターのドアが開く。私は涼太君の手を引っ張って、エレベーターから走って遠ざかった。誰もいなくなったエレベーターは、静かにドアを閉じて昇っていく。

「どうしたの?そんな慌てて・・・」
「涼太君・・・」

手がまだガタガタと震えている。こんなときだから仕方ない。私は無意識に、涼太君を引き寄せるように彼のTシャツの裾を引っ張っていた。

「今更ドラマが怖くなったんすか?だから観るの止めようって言ったのに。」

へらっと笑う涼太君の顔を見て、少し安堵する。涼太君はまだ震えている私の手をぎゅっと握って、「大丈夫っすよ」と空いた片手で頭を撫でた。そうだよ、彼の言うとおり。もう大丈夫。あの番組は、まだ時間的にはやっているけど観ないことにしよう。あんな番組観ていたから、寄ってきたのかもしれないのだから。
 

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