血+

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十九世紀末 フランス

彼は呆然とそこに立ち尽くしていた。
先程まで青かったはずの空は、“動物園”を焼く炎によって真っ赤に染まる。
鮮血をぶちまけたような空を見上げ、彼は口を開けることすら出来なかった。
肉を焼いているような臭いに加え、血の生臭さが鼻をつく。

一体何が起こったんだろうか。
彼は今日が始まってからを思い出す。

今日は、起きたらすぐに仕事が待っていた。
この屋敷の執事長を務める彼は、今日は特に忙しかった。
何せ今日は彼の主人の、ジョエル・ゴルドシュミットの誕生日。
彼はワイン好きの彼のために、知り合いの醸造業者にワインを特注していた。
パーティーが始まる前には戻れると部下に伝え、彼は自分で知り合いの所まで行った。
下女や下男に任せることはしたくなかったのである。
きっと喜んでくださるだろう。
そういえば、サヤ様もサプライズがあると仰っていた。
今日は素敵な日になるだろう。
彼はそう思い、胸が踊るような気分で屋敷へと戻った。

そして今に至る。


【これは、どういうことだ?】

何故屋敷が燃えているのだ。
何故こんなにも臭気が漂っているのだ。
唇の辺りにべたつく感触を感じる。
ゆらりとうごく人影を捉え、彼は炎の中に飛び込んだ。
口元を押さえていても、熱気が彼の喉を焼いている。

【旦那様!サヤ様!】

【・・・テオ?】

【ああ、何ということだ!】

瓦礫の下に埋まっているのは、我が主。
血まみれになって泣いているのは、この屋敷に住む“実験体”サヤ。
上質な絹で出来たドレスは破れ、もはや布切れと化していた。

【サヤ様、一体何故・・・】

【違う!私じゃない!
だって知らなかった・・・“あの子”を出しちゃいけなかったなんて。
こんな風になるなんて知らなかったのよ・・・】

泣き崩れるサヤ。
“あの子”と言う単語が、一体誰を示しているのかはすぐに理解できた。
彼はすぐに、“あの子”が閉じ込められているはずの塔の方角を見る。
炎に巻かれている塔の最上階、禁じられた扉はサヤによって開かれてしまったのだ。

【サヤ様、塔の少女は一体何処へ?】

【分からない!アンシェルと一緒にどこかへ行っちゃった・・・!】

サヤは彼にすがるようにしがみつく。
強すぎる力のせいで、サヤの爪が服越しでも彼の肉に突き刺さった。

【私、私・・・!】

【サヤ様、塔の少女を殺すのです。
あなた達の血は互いに毒であります。
血を使い殺すのです!あの実験体を!】


―彼女を殺すことが
 あなたが唯一出来る贖罪―






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