神を呪って死んでしまえ

□01:英霊召還
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久津見の家は、始まりの御三家とはいかずともそれなりの名家である。
歴代の久津見当主は、純粋な魔術師の力によって受け継がれてきた座である。
こういった伝統のため、この家では親族間の血みどろの争いが珍しくなかった。
しかしそれは数代前までの話。
今は極々平和に久津見家は運営されている。


「しおん様に令呪が宿りなさった!」

粗方単位を取り終え、自由時間が増える大学四年目のある日だった。
しおんの手の甲に走った鋭い痛みが、光を放ちながら紋様を描いた。
三画で刻まれたそれは、六十年に一度の聖杯戦争に参加する権利の象徴、令呪であった。

「凄いわしおん!」

「聖杯に選ばれるということは誉れだぞ!流石俺の娘だ!」

両親は歓喜し、一族は皆大騒ぎ。
しおんは聖杯戦争の名前こそは知っていたが、まさか自分がその渦中の魔術師になるとは思っていなかった。
召し使いも一緒の大宴会の後は、降霊術と詠唱の訓練。
その一年後にしおんに渡されたのは荷物と電車のチケット。
電車はもちろん、聖杯戦争の舞台となるとある市だ。

「これはロンドンの知人から貰ったものでね。サーヴァント召喚の際、必ず役に立つだろう。
くれぐれも、命だけは落とすんじゃないぞ。」

「はい、父さん。」

いざ霊脈の地、冬木へ。





思えば、何故自分は聖杯に選ばれたのだろうか。
しおんは冬木へ向かう電車の中で考えていた。
聖杯は、願いがある者を選ぶと言う。
それならば願いはあれしかない、としおんは思った。
小学生の時に起こってしまった悲劇的な事故。
周りは事故だと言うが、しおんはそれが事故ではないことを知っている。
当事者であるからこそ知っている事実。

(何だか未練がましい)

自分は心では彼を望んでいた。
紛れもない、血の繋がった実の弟ともう一度会いたいと。





ドイツ アインツベルン城
城内の一室には、パソコンに向かう男性と彼を覗きこむ女性がいた。
男性の名は衛宮切嗣、女性の名はアイリスフィール・フォン・アインツベルン。
二人とも魔術師であり、アイリスフィールは始まりの御三家アインツベルンの家の者だ。
今回は彼女の夫である切嗣が令呪を授かったのである。
切嗣はプリントアウトした資料を一枚一枚整理していた。
その資料というのは、言わずもがな聖杯に選ばれたマスター達の物である。

「遠坂時臣。遠坂家当主。
火属性、宝石魔法を得意とする魔術師。手強いな。」

写真付きの資料を一枚捲る。
その下には、また別のマスターの情報が記載されている。

「あら、女の子のマスターね。」

「あぁ。久津見家きっての才女、久津見しおん。
風属性を持ち、退魔術と錬金術に優れているマスターだ。」

「可愛いけど、油断は大敵ね。」

「・・・間桐雁夜。十一年魔術から離れていたらしい。
そんな男を使うとは、あの家の爺さんも今回は必死だな。」

「それから、アインツベルンの切札、衛宮切嗣。私の最愛の人。」

アイリスフィールはにこりと切嗣に微笑む。
切嗣は面食らったような表情を見せる。
彼女はそれを見て、また笑った。

「次は、言峰綺礼―――」

資料を読み込み、切嗣は顔をしかめた。
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