神を呪って死んでしまえ

□02:協力者
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「せんぱーい!」


しおんが借りている部屋を誰かが訪問してきた。
玄関からの声にディルムットは不信感を抱いたが、しおんは気にすることなく扉を開けた。
外にいたのは、一人の男性。
明るく元気な雰囲気を持つ人物だった。
外ハネした焦げ茶色の髪が、彼を見る人に人懐こい印象を与える。
彼の手には、大きな紙袋が提げられていた。

「いらっしゃい。よく来てくれたわ。」

「先輩直々の頼みですから。
お!彼が先輩のマスターっすか?なんというイケメン!」

「・・・主、この殿方は?」

「私たちの心強い協力者よ。」

しおんは柔らかい表情でそう言った。
何となく、彼女の頬が染まっている気がした。
生前のディルムットにとある女性が向けていたそれとそっくりだった。
しおんに促され、彼はディルムットに自己紹介をする。

「黒川陽です。久津見先輩の一個下で、先輩には大学でお世話になりました。」

「私は我が主、しおん様のサーヴァントであります。
どうぞ、ランサーとお呼びください。」

「ん、よろしくランサー!」

「いえ、こちらこそ。黒川殿。」

差し出された手に、ディルムットは恐れ多いと感じながらも、しっかりと己の手を重ねた。





【後はよろしくね。】

ついさっきの会話が思い出される。
彼、黒川陽は、しおんとの話が終わるとすぐにディルムットに紙袋を渡した。
中には、恐らく彼の物であろう服がぎっしり入っていた。
ニコニコと笑う陽にされるがまま、ディルムットはあっという間にどこにでもいる現代の若者になった。
そうは言っても、彼のイケメンっぷりはどこにでもいるものではないが。
しおんに見送られ、ディルムットは現在陽の車に乗っていた。

「これからどちらへ向かわれるのですか?」

「新都のショッピングモールへ。
今日はランサーの洋服調達を先輩から任されているんです。」

「そうだったのですか!」

「その様子だと、先輩から聞いてなかったみたいっすね。
どういう服を選んだらいいのか分かんないって、俺に電話してくれたんです。」

ディルムットの右の席に座る陽は、照れくさそうに頬を掻いて言った。
彼は、陽の心を占めるものが何であるのかをすぐに悟る。
聞いてみたいと、尋ねてみたいという衝動が沸き立ったが、無礼極まりないと留まった。
そのディルムットの胸中を知ってか知らずか、陽は自らのことをディルムットに語り始めた。

「黒川の家は、もう何代も前に廃れたんです。
俺は本当に久しぶりに、魔術回路を持つ人間として黒川に生を受けました。」

黒川は元を辿れば、久津見にも行き着く。
先祖の黒川家が師としていたのは、とりわけ退魔術と薬草術に秀でた久津見だったからだ。
久津見には少ないながらも優秀な門下がいた。
黒川もその内の一つだったのだ。
しかし、魔術回路を持つ人間が生まれなくなってから、黒川はみるみる内に廃れていったのだ。

「それでも、久津見との関係は細々と続いていたようです。
先代の久津見当主がお亡くなりになった際、親父や爺さんが葬式に出席しましたから。」

陽自身が、自分に魔術回路があることを知ったのは大学一年生の時。
部室が並ぶ棟で偶々彼が扉を開けたのは、四年生一名、三年生三名、二年生一名で構成されるサークルの部屋だった。
扉を開けたときの、五人の驚いた顔は今でもよく覚えている。
何しろそのサークル構成員全員に魔術の教養があり、部屋は一般人が入れないように術式をかけていたからだった。
術式と言っても簡単なもので、微量の魔力を扉が認識すれば扉は開く。
今年の一年生に魔術師はいない、残念だ、と話していた上級生は、この何も知らないような新入生の訪問に面食らったのだ。

「冷蔵庫やらテレビやらコンロやら、先輩達色々持ち込んでたんですよ。勝手に電気も引っ張ってきてたみたいだし。
職員に絶対に見つからないようにっていう隠蔽工作だったんです。
だから見つけた俺も、強制的にそのメンバーに加わりました。」

「そこで、しおん様と親しくなったのですね。」

「先輩の名字聞いたとき、ピンと来たんです。
もしかして、あの久津見さんなのかなって。そしたら大当たりですよ。
楽しかったなぁ、食って飲んで騒いで・・・
そして、俺が三年生の頃に先輩に令呪が宿った。一年前のことです。」
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