神を呪って死んでしまえ

□03:謀略の夜
1ページ/2ページ

同日 夜

しおんは彼女の協力者、黒川陽から渡された発信器や通信機、それから追跡用の礼装などを整理していた。
聖杯戦争において、サーヴァントの力も勝敗を決めるのに重要な役目も果たすが、等しく情報も重要となる。
敵となるマスターの拠点はどこか、得意魔術は、弱点は、といった具合だ。
聖杯戦争は情報戦の性質も兼ね備えているのである。
魔術師の中には、電話などの所謂文明の利器といったものをひどく毛嫌いする者がいる。
となれば、科学技術から生まれた発信器や通信機は彼等の苦手とするものとなる。
しおんは文明の利器を使うことに関しては、何ら抵抗はなかった。
この事実は、有利に働かなくても不利にはならない。
結界が張り巡らされる中に、誰が好きこのんで偵察用の使い魔を送るか。
それならば、内側に盗聴器でもしかけておけば事足りるのだ。
ビニール袋からボタンよりも小さな機械を取り出しながら、しおんはそんなことを考えていた。



「しおん様。」

「どうしたの?」

「黒川殿の使い魔が来ました。」

リビングの窓、その真下の床には魔法陣が描かれている。
それは陽の式、簡単に言えば使い魔が召還されるためのものであった。
紙で出来た鳥が、静かに魔法陣の上に止まっている。
鳥のくちばしには銀色の筒が咥えられており、しおんはそれを取ると水の張った桶にポチャンと落とした。

「陽からもメールが来てる・・・」

パソコンのメールを確認するしおん。
新着メールを開き、その文面を目で追った直後、しおんは驚きを隠せなかった。

「どうなされた?」

「アサシンがやられたとある。見てみましょう。」

水の張った桶には、先ほどの銀色の筒が浮かんでいた。
やがて筒はじわじわと水に溶け始め、完全に形が無くなると水面には動画が映し出された。
暗闇の中、大きな庭に一つの影が降り立つ。
庭に張り巡らされた結界をするりするりと抜けていくそれは、サーヴァントの内の一体、アサシンで間違いなかった。
アサシンが庭の中央にある物に手を触れようとしたとき、アサシンの体を一閃が貫いた。
星のない真っ暗な夜を照らし出すような、金色の閃光が飛び交う。
再び夜の暗闇が戻ったとき、そこに残っているのは無惨な姿になったアサシンだけだった。
動画はそこで終わり、桶の水面は普段通りにユラユラと揺れている。
証拠隠滅のため、一度きりの再生しか出来ないようになっていた。

「今の金ピカ、何だろうね?」

「分かりかねます。しかし、強力な宝具を持つサーヴァントであることには間違いないでしょう。」

「三大騎士クラスの一角“アーチャー”の座につける英霊となれば、少しは絞れるかしらね。
とは言っても、遠坂家もやってくれるじゃない。初っぱなから見せつけてくれるわ。」

顎に手を当て、少し悔しそうに、だが歓喜にも似たものが沸き立つのを感じた。
面白くなってきた、と腹の底でそう言っている自分をしおんは認識していた。
自分で理解するよりも、そういうことは他者の方が理解しやすい。
ディルムットは、隣にいるマスターを見つめて彼女が考えていることを悟っていた。

「楽しそうですね、しおん様。」

「そうだね・・・呆れたかしら、こんなマスターで。」

「いえ、むしろ嬉しく思います。
強い敵を見つけたときの高揚感、それを理解してくださるしおん様がマスターであることが。」

「小さいときから、魔術の修行や誰かと競い合うことが好きだった。
・・・少し気になるけど、今夜はもう考えるのは止めにするわ。もう寝ます。」

「はい。お休みなさい、しおん様。」

「お休み、ランサー。また明日。」

ディルムットは霊体化し、光の粒となって消えた。
一人部屋に残ったしおんは、テーブルに肘を乗せたまま考えに耽る。
先ほどのディルムットとの会話で、思い出してしまったことがあった。
遠い日の、姉弟の思い出であった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ