神を呪って死んでしまえ

□04:騎士王との邂逅
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未遠川河口 倉庫街

街灯がつき始める頃、しおんはそこに到着した。

【サーヴァントとそのマスターと思しき者たちを発見しました。】

【誘ってみましょうか。きっと食いついてくれるはず。】

サーヴァントとマスターは、離れていても声が通じる。
声という言い方には少し語弊があるかもしれないが、一種のテレパシーみたいなもので、ディルムットにはしおんの、しおんにはディルムットの声が確かに頭に響いていた。
一日街に出させたディルムットがようやく見つけた敵。
彼によれば、他には引っかからなかったらしい。
無理もない、一人引っかかっただけでもいいと言ったのはしおんだった。



(女性のマスターに、サーヴァントか。)

誘いに応じてやってきたのは、金髪緑眼の男装の少女と、銀髪隻眼の美女。
倉庫の屋根の上からしおんは敵の様子を窺っていた。
得意の風の魔術で、自身の姿を見えなくしている。
多少の空間の揺らぎは生じてしまうが、今は夜だ。
見破られる可能性はほぼないと考えて良いだろう。
カツン、と足音が響く。
彼女のサーヴァントであるディルムットが、二槍を携えて現れた。

(サーヴァントは、金髪の女の子の方。
それにしても、桁外れのパラメーター・・・彼女のクラスは“セイバー”しかあり得ない。)

金髪の少女を一目見ると、しおんの頭の中に彼女のサーヴァントとしての性能が浮かんできた。
これは、聖杯戦争に参加するマスター全員が出来ることである。
ディルムットには“必滅”の名を冠する宝具があるが、相手の流れになってしまえば苦戦は必須と見える。

(彼女はここで、倒すべき相手だ。)



「よくぞ来た。今日一日、この街を練り歩いて過ごしたが、どいつもこいつも穴熊を決め込むばかり。
俺の誘いに応じた猛者は、お前だけだ。」

相手のサーヴァント、金髪の少女は銀髪の美女を庇うようにして前に出る。

「その清澄な闘牙、セイバーとお見受けしたが、如何に。」

「如何にも。そういうお前は、ランサーで相違ないな?」

「フッ、これから戦おうという相手に名乗ることも許されないとは・・・興の乗らん縛りがあったものだ」

ランサーは二槍を構え、いつでも戦えるように意識を研ぎ澄ませる。
セイバーからは青い光が迸り、光に包まれたその後、鎧に身を包んだ剣士が現れた。
これこそが、セイバーの英霊としての姿だ。
チャキ、という金属が擦れるような音がしたが、肝心の剣が見当たらない。
しかし、彼女は両手で何かを構えている。
風王結界(インビジブル・エア)という名の彼女の風の魔術は、宝具の一つ。
しおんの魔術と同じような仕組みではあるが、より強力で洗練された物であった。

「ランサーはお任せを。
しかし、相手のマスターの姿が見えないのが気がかりです。注意してください。
アイリスフィール、私の背中は貴女に任せます。」

「分かったわ、セイバー。この私に必ずや勝利を!」

麗しい姫君と、彼女を護る勇敢な騎士。
いいマスターとサーヴァントの組み合わせを引いたのだなと、しおんは率直な感想を抱いた。
英霊だって元は生きていた人間であり、マスターは言うまでもなく生きた人間。
互いに相性というものもある。
自分とランサー、セイバーとあの姫君を比べれば、紛れもなく後者の方が良いコンビだろう。
三騎士クラスを喚んだ割には、“王”“姫”“君主”といった気概をしおんはあまり持ち合わせていなかった。
むしろ、彼等と同じ気質だと言っていいかもしれなかった。

「・・・魅了(チャーム)の魔術?」

ランサーと対峙していたセイバーが、それに気づいた。

「悪いが、これは生まれ持った呪いのような物だ。
こればかりは如何ともし難い。
俺の出生か、もしくは女に生まれた自分を恨んでくれ。」

「その結構な面構えで、よもや私の剣が鈍るものと期待してはいるまいな。槍使い。」

「そうなっていたら、興ざめも甚だしいところ。だが、セイバークラスの抗魔力は伊達じゃないらしい。
結構、この呪いのせいで腰の砕けた女と闘り合うのは気が引けるのでな。
最初の一人がお前のような骨のある奴で嬉しいぞ。」

「ほう、尋常な勝負を所望であったか。
誇り高い英霊と相見えたのなら、私にとっても幸いだ。」

「それでは、いざ。」
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