ネタ尽くし

□一話
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いわゆる地方中枢都市の春巳市、その街の中心部からバスで揺られること三十分強の場所にあるのが、鞍巳村。開発された街の雰囲気は一変し、ここは山々の緑が映える村だ。人口は少なく、村の若い者はほとんどが春巳市へと出て行く。村には老人が多かった。そしてこの村には、一つの大きなお寺があった。名前を“王滝寺”。お正月になれば、毎年たくさんの人が初詣にやってくる村の名物寺だった。広い敷地の一角には、大きな日本家屋が構えている。そこは寺の和尚達が日常生活を送っている場だった。

よく晴れた日の朝のこと、使用人と思われる一人の少女が早足でこの屋敷の通路を歩いていた。時刻は七時半を回っていた。あぁ、今日も良い朝だと思いながら少女は目的の部屋へと急ぐ。手製のネームプレートがかけられたドアを、彼女は数回ノックした。

「那波さま、朝食の準備が出来ましたので居間へお越しください。」

反応は無い。まだ起きていないのだろうか。彼女はもう二、三回ノックをする。嫌な汗が彼女の背中を伝った。この部屋の主はだいたい七時には起きているからこの時間帯にやってきたのだ。毎朝規則正しく起きる彼女の返事がないということは、部屋にいない可能性の方が高い。使用人の彼女は、ドアノブに手をかけた。鍵はかかっていないので、そのまま捻れば簡単にドアは開く。

「失礼します!」

入った直後、彼女は肩を落とした。やっぱり部屋の主はいない。

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