進撃

□5年ぶり
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850年


「フレデリック、イーナ、左は任せたぞ!」

「「了解!」」

立体機動に移り、イーナの身体が回転する。調査兵団に入ったばかりの二人であったが、実戦経験は積んでいる。実力を買われ、前線に立っていた。ワイヤーを放ち、巨人へと接近する。巨人の急所があるうなじを狙うために、イーナは巨人の背後へと回った。フレデリックとイーナが任された巨人は二体いる。確実に一体を仕留めてから、もう一体を獲りにかかる。実力を過信するのは命取りだ。イーナが掲げた二本の剣が、巨人の肉に滑り込む。すぐさま肉体に刺さっていたアンカーを取り外し、地上に着地した。剣にこびりついた血は、少し横に振れば簡単に払われた。イーナの眼前に一体の巨人。しかし、イーナが動じることはない。巨人の背後には、小さな人間の影が迫っていた。



「イーナ。いくら俺がカバーするっつって地上に降りるなよ。危ないだろ。」

「フレディに対する信頼の証だと思ってよ。」

コノヤロウ、と呟いてフレデリックはイーナにデコピンをお見舞いした。
今回の調査兵団の壁外調査は、ウォール・マリア奪還のための補給地点確保が大きな目的だ。つい5年前までは、今イーナたちがいるこの廃墟の街も活気ある普通の街だったのだ。それを思うと、少しだけ切なく感じる。二人が倒した巨人が、蒸気と一緒に跡形もなく消え失せた。そして、初めて人の死に触れた初陣から早5年。調査兵団に入ってから、もう5年も経ったことになる。こうして壁外調査に出る度に、自分の知り合いの誰かの死に直面していた。それでも心が折れないのは、調査兵団の全員が壁の外の自由を求めて止まないからではないかと、イーナは勝手に思っている。

「おーい!フレディ、イーナ!」

「ハンジさん。」

馬に乗って二人を呼ぶのは、調査兵団分隊長であるハンジ・ゾエだ。ぶんぶんと片手を大きく激しく振って二人に叫ぶ。

「退却命令が出た!馬を呼んで壁に戻るよ!」

「でも、まだ来たばかりですよ?」

「巨人が北に向かって、一斉に北上したらしい。これはね、5年前と同じなんだ。」

いつも飄々としているハンジの顔が心なしか青く感じる。5年前、という言葉を聞いてフレデリックとイーナの心拍数も上がった。緊張に似た何かが二人の中を駆けめぐる。

「あのとき最前線にいた二人なら分かるよね?壁が破壊されたかもしれないんだ。」



壁に戻るために、必死に馬を走らせる。真っ直ぐに最前線の街である突出地区のトロスト区へ向かっていた。現在壁の中で巨人とまともに戦えるのは、駐屯兵団の精鋭と5年前の地獄を味わった兵士、そして実力と度胸を兼ね備えた訓練兵のみだ。戦力が足りないのは明らかである。この時期はちょうど卒業演習が終わり、配属兵科を問われる時だ。5年前の、かつての自分たちがそうだったように。

「壁までいったら、大きく三班に分かれて壁を登る。うちのとこからはビアンカとレフ、フレデリックとイーナが初めに壁を登れ!」

「壁が見えたぞ!」

「よし、移れ!」

ワイヤーを発射し、壁に固定する。そのまま馬から飛び降りて壁を登り始めた。イーナたちが登るすぐ横で、一人の人物が真っ先に壁の向こう側へと降りていく。人類最強と言われる兵士、リヴァイ兵士長だ。

「速っ!」

「下は巨人が蠢いてるぞ!油断するなよ!」

先輩であるビアンカとレフに続き、フレデリックとイーナも壁を駆け下りる。足が宙に浮いた瞬間、四人を高温の蒸気が襲う。すぐさま顔を両手で覆った。視界が遮られては、進むことが出来ない。イーナはアンカーを壁に突き刺して、身体を固定した。数秒経ち、強い風によって蒸気が流される。タイミングを見計らって急降下。そこでイーナたちが見たのは、巨人の死骸の上に立っているリヴァイ兵士長と、その近くで固まっているまだ幼い三人の訓練兵の姿だった。
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