ハリポタ

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私は一人っ子。家には私以外の子どもはいない。だけど私は、小さい頃から両親には見えない友達と遊ぶことがあったという。小さい子どもは生死の世界の境界線が曖昧だから、そういうことは珍しくないらしい。でも一つだけ、両親にも言ったことが私のお友達。彼は長身で顔が怖くて、そして私のすぐ近くにいるようだ。



なまえの父は海外出張が多い会社に勤めていた。母はそのことに対し、たまに苦言をもらすこともあるけれど免税店のお土産を引っ提げて帰ってくる父を笑顔で歓迎している。喧嘩も多い夫婦だが、それでも二人の仲の良さは本物だとなまえは思っている。
話は脱線したが、父の仕事柄エアメールが家に届くこともある。空を飛んで運ばれるから“エア”メール。なので、その日も郵便受けに入っていた手紙を見て今回も父宛なのだとなまえは確信していた。

「お父さん、またエアメールだよ。」
「ん、ありがとう。」

休日のお昼ご飯前。みょうじ家の時間はゆっくりと流れていた。台所にいる母が昼食の準備をしている横で、父はゆったりと椅子に腰掛けながら本を読んでいる。まだなまえは子どもだから読んでいる内容は難しくて分からない。

「なまえ、お箸とお皿を並べて。」
「は〜い」
「あれ、これなまえの名前が書いてあるぞ・・・」

父は椅子から立ち上がり、食器棚から三人分の皿を取り出しているなまえに声をかけた。サラダにする用のレタスを千切っていた母も、エプロンで手の水気を切って父が差し出している手紙を覗き込んだ。
手紙は赤色の蝋で封がされており、草書体でなまえの名前がローマ字で記名されている。

「切手が貼ってないわ。誰か近所の人が投函したのかしら?」
「でもこんな封蝋を使う洒落た人なんてなかなかいないだろう。」

父は母にカッターを持ってくるように頼んだ。電話代の横にある文具箱からカッターを持ち出し、それを父に手渡す。彼は慣れた手つきで手紙の封を開けて中にある便せんを取り出した。その便せんには、封筒と同じ書体で英語の文章が書かれていた。

「ええっと・・・“なまえ・みょうじ殿。貴殿のホグワーツ魔法魔術学校への入学を許可する”」
「「ほぐわーつ?」」

すらすらっと英語を読む父に感心する間もなく、母となまえは声を合わせた。
学校と言うからには教育機関なのだろうが、なまえはそんな学校の名前を聞いたことがない。しかも、「魔法魔術」という冠詞が付いているなんて。魔法や魔術は、図書館で借りる本の中の世界だ。

「ほぐわーつ、ホグワーツ・・・何だろう。どこかで聞いた気がするんだけど・・・」
「お母さん知ってるの?」

こめかみをとんとんと叩く母は、幼い頃の記憶を辿る。父もその様子を見守っていた。

「うーん、おじいちゃん方の親戚でねイギリスの学校に通っていた人がいたのよ。確か、その学校もホグワーツって名前だったわ。」
「追記で書いてあるぞ。
“なお、マグル(非魔法族)の皆様に本校の説明を簡単にさせていただきます。本校は、魔法魔術の才がある者のための教育機関であり、本校の教職員及び生徒は全員魔法使いもしくわ魔女であります。”」
「じゃあ、私も魔法使いなの!?」
「そういうことになる。」

そのとき、母がなまえの手をがっと掴んだ。

「すごいわ!私の子どもが魔法使いですって!素敵だわ〜」
「英国か。向こうの水や料理に慣れる時間もいるし、入学の時期を考えると早めに向こうに行かないといけないな。」

きらきらした瞳をする母の隣では、父が手帳を開いて飛行機のチケット予約を始めようとしていた。当の本人であるなまえより、両親の方が何故かノリノリである。とんとん拍子に、出国の日やパスポート取得、ビザの申請に、両親の有給休暇申請、いろいろと話が進む。

「ちょっと待ってよ二人とも!」

なまえの高い声に二人の話し合いがストップした。

「い、イギリスだよ?それに全寮制なんでしょう?それって、家から通うんじゃないんでしょ?」

二人は寂しくないの?
そう言いかけたなまえを、母がふわりと包んだ。

「寂しくないわけないでしょ。でも、手紙も送れるし、お父さんが言うには夏休みやお正月は二ヶ月くらいこっちに帰れるんですって。」

涙が浮かんでいたなまえの目元を、母はそっと拭った。十一年間過ごしてきた家を離れるというイメージもつかないし、友達も頼れる人もいないそんな場所に一人娘を預ける両親だって嬉しい反面不安に思っている。
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