血塗れ将軍

□脇目もふらず駆け抜ける
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そろそろコートが必要な季節になってきた。
ブレザーのボタンとワイシャツのボタンをきっちり閉めただけでは防げない寒さをなまえは感じる。
もう少したてば、吐く息も白くなる。
歩きながらがさがさと手の中の生暖かい紙袋を開けると、そこには楽園が広がっていた。

今日はラッキーだ。
彼女の部活はオフ日であり、彼女の大好物が焼きたてほやほやのまま手の中にある。
いただきます、と元気よく言った後、遠慮なくそれにかぶりついた。
ふかふかの生地に染み込むソースと鰹節が、結婚した!
なんて叫んでしまえば、友人に恥ずかしいから止めろと叱られてしまう。
だがなまえは気にすることなく、モグモグと食べ続ける。
なまえと一番親しい友達が、ツインテールを揺らしながらなまえに尋ねた。

「よくそんな変なもの食べれるね?」

「変じゃないでしょ、美味しいじゃん。」

ガサッと包み紙の音を立てて、彼女の前にそれを差し出すなまえ。

「変だよ、何でたい焼きの中にたこ焼き入れたの?炭水化物がそんなに好きなの?」

「私に言われても知らないし。
でもこれ考えた人、天才じゃない?だって凄く美味しいんだよ?」

反論しても未だに「変だよ」と呟き続けるなまえの友人が食べているのは普通のたい焼きだ。
中身はあんこ&カスタードクリーム。
全国展開しているたい焼きチェーン店のナンバーワンメニューらしい。

「お腹の辺りにソースが染み込んでグロテスク・・・」

「うるさいなぁ、胃に入れば全部一緒でしょ?」

「じゃぁ、プリンとラーメン一緒に食べれる?」

「それは作った人に失礼だけど、これは違うから!」

なまえは立ち止まる。
今、二人はいつもの通学路を歩いている。
彼女たちの通学路は国道に面し、交通量も多い。
大きな交差点で、たい焼きを頬張りながらなまえたちは青信号に変わるのを待っていた。

「あ、小学生。」

「ホントだ。可愛い〜」

向かい側には五、六人の小学生の集団が同じく信号を待っている。
ランドセルを背負い、何やら楽しそうな雰囲気を見てなまえの心は一気に和んだ。

「なんか懐かしい〜」

「そうだね〜」


「あっ!」


なまえたちの向かい側で、大きな白い画用紙が宙を舞った。
小学生の中の一人の持ち物だったようだ。
高い大きな声が響き、画用紙はそのまま横断歩道の真ん中に落下していく。
それを見ていた小学生が、まるで画用紙に吸い込まれていくように道路に出ていった。



「なまえ!」



勝手に体が出ていったのだから仕方ない。
なまえは荷物を投げ捨てると、道路に飛び出した。
その時の感覚はスローモーションに近かったと言ってもいい。
小学生が画用紙を掴んだのと、なまえが小学生を歩道に突き飛ばしたのはほぼ同時だった。
力一杯突き飛ばしてしまったのだが、怪我はしていないだろうか。
なまえにはそんなことも考える余裕があった。

クラクションの音。
タイヤのスリップ音。
友人の甲高い悲鳴。

目の前が真っ赤に染まりながら、なまえにはそれはどこか遠くの音にしか聞こえなかった。
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