血塗れ将軍

□第一印象はまさに最悪
1ページ/2ページ


―――なんだろう

ふわふわして落ち着かない
なんだか気持ちが悪い
地面に足をつけて立っているのか
遊園地のジェットコースターみたいだ
ていうか、あれ、たい焼きは
私の食べかけのたい焼きは

どこにいった?―――



「先生、うちの子は・・・」

「緊急手術を行いましたが、頭部の傷以外は比較的軽いもので済んでいます。
ただ頭を強く打ったため、後遺症が残るかもしれません。」

速水の言葉に、ベッドで寝ている少女の両親は息を飲んだ。
東城医大病院救命救急ICUには、新しい患者が運び込まれてきていた。
名前はみょうじなまえ、年齢十七歳、高校二年生。
身元が判明したのは、事故当時彼女と一緒に友人がいたからである。
今はいないが、なまえが手術をしている間ずっと待合室にいたのだから、かなり親しい仲だというのを担当医の速水は感じていた。

「この馬鹿娘は・・・」

駆けつけたなまえの両親は、ベッドの脇に立って何回もそう呟く。
“小学生を助けて事故に巻き込まれる”なんて物語のようなことを実際にする女子高生がいるとは。
流石の速水も、事故原因を聞いたときには目を丸くしたものである。
そして、救命救急センター全員がそれ以上に驚いたのが

「義兄さん、義姉さん、気持ちはわかるけど今は目が覚めるのを落ち着いて待とう。」

「佐藤くん・・・」

「そうね・・・」

この運ばれてきた患者が、同センターの救命医である佐藤の姪っ子であることだ。
似ていないのは、なまえが佐藤の妻方の姪だからだ。
和泉は、まさか話題になっていた本人が運ばれてくるとは思わず、驚きを隠しきれない。

「んん・・・」

なまえの目蓋が揺れる。
意識が戻ったのだ。

「なまえ!」

今にも娘に抱きつきそうななまえの両親を制止して、速水はなまえに話しかける。

「なまえさん、わかりますか?」

肩を数回叩き、彼女の様子を窺う。

「ん、んぐ・・・」

開いた瞳は焦点が定まらず、なまえはぼーっと天井を眺めた。

「よかった・・・」
「もうアンタは心配ばっかりかけて!」
「なまえ、父さんだぞー」

みょうじ家(両親+佐藤)が、なまえに話しかける。
速水は一旦その場から退いてその光景を眺めていた。
なまえは数回パチパチと瞬きをすると、周りをキョロキョロと見渡す。
そして口元が動いた。

「た、」

なまえは目を見開いて、自分の手を握っていた母親の手を握り返す。
ただならぬ様子に、息を飲む。

「た?」


「食べかけのたい焼き、どこ?」


「ククッ」

堪えきれずに速水は笑った。

「何言ってるの、この子は!」

「へ?あれ、ここどこ?
何で二人ともいるの?ていうか、佐藤のおじちゃん久しぶりに見た。」

まだ状況を理解していないなまえは、恥ずかしそうに頭を抱える両親と叔父に首をかしげる。
なまえは、事故のショックから道路に飛び出したまでくらいしか覚えていなかった。
ベッドの上、手に巻かれた包帯、身に付けている患者用の服、そして担当医の言葉でやっと理解した。

「君は、道路に飛び出した小学生を助けて車に跳ねられたんだ。」

速水はベッドの横に立つと、なまえを見下ろす。
彼の威圧感のせいなのか、それとも現実の重大さのせいか、なまえは顔を青くした。
自分の叔父に目を向ければ、ただ頷かれるだけだった。

「うそ・・・」

「本当だ。
頭に巻いてある包帯を触ってみればいい。
髪の毛に隠れているが、額が五センチほどぱっくり割れていた。」

なまえが頭に手を当ててみると、確かにそこには違和感があって感触から包帯だとわかった。
五センチほどぱっくり、とその言葉を頭の中で想像してみるとぞっとした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ