血塗れ将軍

□そんなこと聞いてない
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「なまえちゃん、熱計りますよ。」

「はーい。」

なまえは看護師長の花房から体温計を受け取り、言われた通りに検温する。
ベッド上部を起こしてある状態だが、昨日の自分が信じられないくらいの疲労感を感じていた。
よく昨日はあんな風に喋れたものだとなまえは思う。
周りを見渡せば、管が繋がれてまだ眠っている患者もいるから、自分はまだ軽傷なのだと思った。

「ぜんぜん軽傷じゃないわよ?」

「あ、一人言聞こえてました?」

「えぇ、もちろん。」

花房はなまえの包帯をチェックしながらそう答えた。
なまえは花房をじっと見る。
職業柄か、彼女は患者にこんな風に見られても軽く受け流すくらいだ。
なまえから見た花房の印象は美人だった。
若いというわけではないが(それならなまえが見た女性救命医の方が若い)、同世代の女性の中でも美人な部類に入るだろう。
母親とはぜんぜん違う、とか考えてボーッとしてると体温計が鳴った。

「お願いします。」

花房に体温計を渡し、しばらく天井を眺める。
花房は体温計を見て結果を書き留める。
なまえは天井にある物が備え付けられていることに気がついた。

「防犯カメラ・・・?」

その呟きに花房が気づき、なまえの見ている場所を見上げた。

「そんなところかしらね。
患者さんが急変しても対応できるように、センター部長の先生がモニタリングしてるの。佐藤先生から聞いたりしなかった?」

「私が姪だって知ってるんですか?」

「佐藤先生がそう仰っていたから。」

「なるほど。」

「みょうじさん、朝ごはんですよ〜」

明るい間延びした声と一緒に、別の看護師がトレイに乗った朝食を運んできた。
質素で味の薄そうな小鉢になまえは“病院食は美味しくない”と誰かが言ったのを思い出した。
しかも、いつも食べている量よりもはるかに多い量だ。

(まぁ、残せばいいか・・・)

「残さずしっかり食べてくださいね。」

「・・・はい。」

逃げられないと悟ったなまえはトレイに乗っている箸を手に取り、手を合わせてから食べ始めた。
うん、味が薄い。
でも病院食食べ続けたら痩せそうだ。
そんなことを考えながらモグモグ食べ続ける。

「ご飯が終わったら、また担当の先生が来るから。」

「はい。」

花房はそう言うと、その場から去って別の患者の下へ行く。
看護師の、しかも救命にいる彼女に休む暇はない。


一人になったなまえはモグモグと食べていく。
意外と味噌汁は美味しいということを発見した。
おかず、ご飯、汁物を食べ終えたなまえは天敵に挑む。
野菜ジュースだ。
意を決し、野菜ジュースを一気に飲み干す。

(うぁぁ・・・やっぱり慣れない、この混ざった生臭い感じ)

「あ、野菜ジュースもちゃんと飲めましたね。」

片付けにやって来た看護師が、ニコニコ笑いながら現れた。
飲めたというか飲み込んだというか。
だが天敵(野菜ジュース)に勝てたので良しとする。

「では、失礼しました。」

看護師がトレイを持っていった後、なまえはベッドの近くのサイドボードに手を伸ばした。
引き出しの辺りを探り、そこから取り出したのは一つのロリポップキャンディーだ。
誰が置いたのか分からないが、とりあえず起きたら枕元にあった。

(おじちゃんかな?)

くるくるとキャンディーの棒部分を回す。
食事も終わった。
担当医がいつ来るかはなまえにはわからない。
暇だ、退屈だ。
携帯が手元にあれば、メールを打ったりブログを見ることもできる。
だがここは病院だからそんなことも構わない。
目がさえたせいで寝ることも叶わず、なまえは起こしたままのベッドにもたれかかってため息をつく。
手に持っていたキャンディーは、再び引き出しの中に押し込まれた。
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