血塗れ将軍

□レディーファースト
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「忠犬?」


「そ!忠犬!」

愚痴外来にて。
藤原看護師の好意でコーヒーを煎れてもらった。
熱いコーヒーを口にしながら、白鳥は楽しそうに話す。
一方のなまえは“忠犬”という言葉に顔をしかめた。

「忠犬って、ハチ公のことですか?」

「違うよぐっちー。君は何を聞いてたの」

白鳥は呆れたように両手をあげた。
全く、この男は人の神経を逆撫ですることには長けている。
穏和な田口だって、白鳥の取った行動にむっとしていた。

「私の渾名ですよ“忠犬”は・・・」

「僕の行く先来る先必ず着いてくるでしょ?だから、忠犬なの。」

「なるほど・・・」

「なるほど、じゃないですよ!
忠犬忠犬って呼ばれる身にもなってください!」

なまえがそう言うと、田口は肩をすくめてすみません、と謝った。
案外、一番苦労しているのは彼かもしれない。
厚労省の白鳥となまえ、救命センターの医師や看護師に板挟みにされている状態だ。
なまえはともかく白鳥はどちらかと言えば救命センター内で嫌われている。
だが、彼と行動する田口が嫌味一つ言われないのはひとえに彼の人間性によるものだろう。

「でも僕としては折角なら女房の呼ばれ方の方が好きなんだけどね。」

「女房じゃありませんから。」

肩に手を回してきた白鳥に、なまえはピシャリと言い返した。
田口は、慣れた反応だと感心する。

「グッチー聞いた!?
この言い方!冷たすぎるよね!」

「白鳥さんですから。」

「・・・何それ、フォローになってないよ。」

仕方ないですよね、となまえは田口と顔を見合わせて笑う。
まるでおいてけぼりのような扱いに不満な白鳥は、仏頂面でコーヒーを啜った。

「子供じゃないんですから、拗ねないでくださいよ。」

なまえはぐずぐず言っている白鳥を横目で見た。

「しょうがないですよ。
白鳥さんはどこかの名探偵の逆で体は大人中身は子供ですから。」

「なるほど」

「君たち僕には本当、容赦無いよね!!」

特になまえちゃんはそんな風に育てた覚えはない、と白鳥はこぼす。
しかし、当のなまえは育てられた覚えはない。

「まだ調べ足りないことでもあるんですか?」

田口に新しいコーヒーを貰い、なまえは尋ねた。
その問いに対して白鳥はよく分かったねと言わんばかりの笑みを見せる。
端から見れば、整った顔が眩しい笑顔になっているので、これで女を落としてきたのだとなまえは理解した。

「ここの救命センターのセンター長がどうにも怪しくてね〜」

「そうですか。
私はてっきり厚労省よりも田口先生の所が居心地がいいからだと思ってました。」

「まぁ、それもあるけどね。」

「やっぱり!」

「田口先生は暇じゃないんですから、ご迷惑をおかけすることは止めてください。」

「女房!?」

「ノット女房!!」
 

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