T&B

□ストーカー編いち
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一週間後

「英、呼び出し!」

シュテルンビルト内、とある高校のお昼休み。
友人達と昼食を食べていた英に声がかかる。
箸をパチンと置いて教室の入り口に行けば、一人の女子生徒が立っていた。
同好会や部活でも見たことがないので、知り合いではない。
栗色のミディアムヘアに軽くパーマをかけている彼女は、気恥ずかしそうに口を開いた。

「蔵前君、今日の放課後空いていますか?」

「放課後・・・あぁ、うん。六時くらいまでなら大丈夫だよ。」

英がそう返すと、女子生徒の顔が驚きの表情を見せる。
六時くらいまでなら、は少し早すぎだろうか。
高校生の門限としては確かに早すぎるが。

「あの、私、新学期に蔵前君に助けてもらって・・・でもすぐにお礼が出来なくて。」

「えと・・・」

まずいぞ、そんなこと覚えていない。
頭の中の新学期頃の引き出しをひっくり返して漁っても見つからない。
英がチラリと後ろを向くと、友人達がジェスチャーで囃し立てている。
ガキかお前ら!と叫びたい気持ちをぐっと抑える。

「それで今日、お茶だけでもと・・・」

もじもじと顔を真っ赤にして彼女は英を誘う。
お茶だけ、というのは高校生にしては健全過ぎないか。
見るところ、あまり押しの強いタイプではなさそうだ。
後ろからの冷やかしも気になるし、ここは断っておくか。

「そんな、気にしなくていいのに。」

やんわりと距離を置く発言。
完璧だ、完璧に彼女はこれで諦める。
英はそう確信したが

「いえ、私の気持ちが収まりません!」

前言撤回、押しは強いと判明。

「・・・じゃあ、放課後に玄関で。」

「は、はい!」

自分のこういうところ、駄目なんだよなと英はため息をついた。
彼女の背中を見送ると、「やったねリェナ!」とか女子生徒が騒いでいる。
そうか、名前は“リェナ”と言うのか。
英はフレディ達のところへ戻る。
椅子に座ると、ニヤニヤしながらフレディが肩に手を回してきた。

「何」

「あの娘さ、隣のクラスのリェナ・プロッサーだろ?
あんな美少女とどこでお知り合いになったんだよ、英!」

「新学期には会っているみたいだぞ。」

「“みたい”ってお前・・・」

フレディ以外の友人もため息をつく。
止めろ、頭を抱えて「何コイツ爆発すればいいのに」とか言わないでくれ。
英は食べかけの弁当に手を伸ばす。
まぁ、一回放課後一緒に出掛ければいいだけだ。
気を楽にしていこう。
確かにリェナは可愛かったから、友人達が騒ぐのも無理ないか。
そう思う英も一介の男子高校生。
心の底では、少し舞い上がってしまっている部分がある。
英はそれを表に出さないように冷静になるように努めた。

「付き合うの?」

「まさか。お茶するだけだよ、お茶!」

「何その清すぎる関係!高校生には綺麗すぎるだろ!」

「いや別に、恋人ならまだしもだなお前ら・・・」

「解せぬ、何故英だけこんなに女の子人気が高いんだ!」

フレディは英から箸を奪うと、弁当の卵焼きに勢いよく突き刺した。
そのまま口に運び、モグモグと美味しそうに食べる。

「フレディ!」

「やっぱり英ん家の卵焼き旨いわ〜」
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