血+

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沖縄にある小さな飲食店“オモロ”。
その看板を確認した後、スーツ姿の女性は店の扉を開けた。

「いらっしゃい・・・お前」

「Bonjour,ジョージ!久しぶりね。」

「オリガか!いやいや久しぶりだな!」

挨拶としてハグを交わす。
さあ座れ座れと、オモロの店主宮城ジョージはオリガのために椅子を引いた。
オリガは行為に甘えて席に座り、適当につまみと酒を注文した。
暑くて仕方ないため、ジャケットを脱いでワイシャツになり腕捲りをする。

「スーツなんかで来るからだ。」

彼女はジョージが出したお冷やを一気に飲み干した。

「本当ね。もっとラフな格好でくれば良かったわ。
それから、もう私はオリガじゃない。立派に“テオドール”になったのよ。」

スッとテオドールが背筋を伸ばせば、それに倣うように空気が張り詰めた。
ピリピリとした静寂が二人を包んでいる。
ジョージは、いつの間にか成長していた彼女を嬉しく思いつつもどこか寂しく思っていた。
強さと権力を手に入れる代わりに、彼女は何かを失っている。
そういう確信があった。

「・・・俺からすれば、オリガはオリガさ。」

「そう言われると何だか調子が狂っちゃうわ。」

お代わりと言ってお冷やのグラスをジョージに渡す。
ジョージは彼女が今から飲めるかどうかを確認した後、酒と簡単なつまみをだした。

「美味しそう!」

お箸を持ち、日本の作法でおつまみを口に運ぶ。
嬉しそうに咀嚼しているオリガを見て、ジョージはカウンターから身を乗り出して尋ねた。

「小夜だろう?お前さんの用事は。」

「・・・気づいてたの?」

「当たり前だ。
そうじゃなきゃ“赤い盾”長官秘書のお前がどうして沖縄に来る。」

パチン、と箸が置かれる。
再び訪れる静けさ、そこにはある種の緊張感があった。
小夜というのは少女の名前だ。
“赤い盾”という組織の監視下にある少女。
オリガはバックから手帳を取り出し、一枚の写真を引き抜いた。
それはジョージが彼女に送ったものだった。
写真の中で笑う快活な雰囲気を持つ黒髪の少女。
それが小夜だ。

「デヴィッドからの報告じゃ物足りないのよ。
何て言うの?人間味が無いって言うかさ・・・」

まあ、アレは人間じゃないけど。
そう言いかけてオリガは口を閉じた。
ジョージの方もオリガが何を言わんとしたのか理解していた。
仕方ないのだ。
小夜は兵器であって、人間ではない。

「・・・でもジョージは言ったじゃない。
【小夜は俺の娘だ】って。私はその言葉をずっと信じてる。
だから見に来たの、貴方の娘さんをね。」

「おうおう存分に見てっていいぞ。自慢の娘だからな!」

「それが聞けて安心したわ。
ねぇジョージ、一緒に飲みましょうよ。」

「嬉しいねぇ。お前のような美人となら酒も割増で旨くなるからな。」

「それじゃ、乾杯!」
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