神を呪って死んでしまえ

□02:協力者
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黒川陽は思った。
本人を見て、サイズだけ聞いて、後は全部自分が選んで買ってくれば良かったと。
陽は別段センスが良いというわけでもなければ、別段センスが悪いということもなかった。
大切にしているのは“シンプルイズベスト”の言葉。
たまに流行を取り入れたりするくらいのお洒落具合だった。
だからこそ思う。
自分がいつも行くショップには、女、女、女、女!
ここ、男性服のスペースなんですけど。
わらわらと集まる女性達にそう言いたいが、ハートを散らし狩人の目をした彼女たちに言えるわけもない。

「ランサー・・・」

「どういたした、黒川殿!?」

「早いところ選んで帰ろう、うん、そうしよう。」

「申し訳もたたない、私のせいで!」

「仕方ないさ。」

舐めきっていたのは陽の方だ。
流石“魔貌”といったところだろう。
彼のマスターであるしおんが、退魔術に強くて良かったと心から思う。
逆立ちをしたって、この美丈夫には絶対に勝てないと分かっているからだ。




「お帰り、二人とも!」

しおんの部屋に戻ると、彼女はにこやかに二人を出迎えた。
ちょうど良いタイミングでお茶を入れていたらしく、リビングルームからは良い香りが漂ってくる。

「お金足りた?」

「ちょうどセール時期ってのもありましたからね。少し残りましたよ。」

「ご苦労様。私じゃ無理だったから。」

微笑みの裏にしたたかさも兼ね備える女、久津見しおん。
陽も苦笑いでそれに返した。

「何故洋服を?」

「その格好だと、街を練り歩いてもらうには目立つからね。
サーヴァント同士なら、どんな格好でもお互いが英霊であることは分かるんでしょう?」

「その通りです。」

「陽の情報によれば、マスターは冬木に集まっている。
隠れてるのもいいけれど、それでは戦局は変わらない。
思い切って、おびき寄せる。ただの一人でも引っかかってくれたとしたら、上々の結果ね。」

温かい紅茶を三つのカップに注ぎ、しおんは陽とディルムットの二人にカップを手渡した。
先ほどの柔らかな空気は一転し、鋭敏なものに変わる。
彼女のに何かを尋ねることすら、緊張を孕んでいる。

「明日、ランサーには単独で街に出てもらう。
サーヴァントとそのマスターを見つけたら、私に知らせて欲しい。」

「承知した。・・・しおん様。」

ディルムットは了解の意を伝えた後、それにすぐに続ける。
紅茶に口を付けていたしおんは顔を上げ、小首をかしげた。
まとう空気は、またいつものように戻っていた。

「どうかした?」

「貴女にはまだ何かあると窺える。
懸念する事があれば、教えていただきたいのです。」

「・・・そうね、私だけでは対処できない可能性もあるし。」

しおんが目配せすると、陽は自身のバックからノートパソコンを取り出した。
カタカタとキーを打つ音が、静かなリビングに響く。
陽はとある画面を出してから、それをディルムットに見せた。

「“始まりの御三家”アインツベルンの切り札、“魔術師殺し”として名高いこの男は、衛宮切嗣。
恐らく、彼は聖杯に選ばれているはず。
一戦を交えなければならないと思うと、少しね・・・」

「・・・私では、力不足ということですか。」

「それは違うわ、ランサー。
言ったでしょう?この男は“魔術師殺し”であると。
戦場ではきっと彼は私の命を取りに来る。
彼と対峙して生きた者がいない以上、気休め程度の対策しか出来ず、絶対の対策は立てられない。」

「ならば私が」

「非戦闘時における護衛はあなたに任せるわ。
だけど、戦いになったら私は自衛する。守られるだけが、君主じゃないもの。」

「そこまでお考えになっているのであれば。
出過ぎた発言、どうかお許しください。」

ディルムットはしおんに対して深々と頭を下げた。

「いいのよ。どうやら聖杯戦争第一戦目は、私たちの試合になりそうね。」






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