HellO!!

□いち
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「野菜詰め放題開始でーす!」

ピーッとけたたましく笛の音が鳴る。その音を合図として、家庭を支える主婦の皆様が野菜のワゴンに飛びついた。お一人様一袋、野菜はいくつ入れても大丈夫、早い者勝ちのデスレースといったところである。ここに、凛も紛れ込んでいた。体育祭の棒倒しが可愛く見えてしまうほどの迫力に気後れするが、ここで引いたら日本男児の名が泣く。そして家に帰ったら妹の晴鹿(はるか)にこっぴどく怒られる。

「負けるかァ!」

凛も参戦、まず始めに掴んだのは形のいい人参だった。

「以上六点、お会計千二百九十円になります」
「はい」

戦争は、終わった。凛は満足げにエコバックを引っ提げて戦場(スーパー)から立ち去る。頼まれた物以外にも、半額シールの牛肉も買えた。これで怒られることはない。

「ただいま」
「お帰り!さてさて、戦利品を見せておくんなし!」
「日本語おかしいぞ。ま、いいか。ほれ」
「いっぱい詰めたじゃん。ヨーグルトに食パンも買ってきたね。牛肉もある!」
「俺は学んだのさ、牛肉は半額シールに限ると」
「週末のディナーはご馳走だね。あ、早く手を洗ってきて。ご飯にするよ」

エプロン姿の晴鹿は、パタパタとスリッパを鳴らして台所に戻っていった。鞍馬家の家計を管理しているのは晴鹿だ。流石に、預金などの管理は凛が行っているが。平穏無事に毎日が過ごせるのは、晴鹿のおかげである。
凛と晴鹿の両親は、彼らが十歳を超えたあたりで亡くなった。突然の死だった。両親が建てた家は、幼い兄妹には広すぎる物だった。だがそれでも、親戚や地域の人の力を借りて二人はこうして自分たちで生きている。それが、鞍馬兄妹の誇りでもあった。

「」
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