雑食

□あなたが好きだから
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「あ、そうだ。俺さ、好きな人できたんだー」

そう言って、頬を少し赤く染めながらはにかんだ君。

「まじで!誰、誰?」

そう言って私は知らないふりをした。本当は知ってるよ。同じクラスのあの子、だよね。好きな人の好きな人ぐらい把握済みだ。

「同じクラスの―、」

「隣の席になったときから―、」

人間の耳というのは都合よくできているよね。気付けば私の耳はシャットダウンされ、聞こえてくるのは話の片々ばかり。聞きたくなかった。だって彼の口から聞いてしまったら、全部本当になるから。私の勘違いであればいいなあ、とずっと思ってたのに。ただ強いて言うならば、もう少し早くシャットダウン機能が働いて欲しかった。彼に好きな人がいることは本当になってしまった。せっかく今まで気付かないフリをしていたのにね。

「で――が、―」
「へぇ、」

私は適当に相槌を打つ。ごめんね、栄口くん。聞いてあげられなくて。好きな人の話は一字一句漏らさず聞きたいと思う。でもこの話ばかりは無理だ。聞きたくない。だからごめんね。

「それで―が、――」

「へー、あはは」

どうして笑ってるんだろう、私。気持ち悪い。何も楽しくも面白くもないのにね。無理に笑顔をつくって、馬鹿みたい。泣いてしまえばいいのに。いっそ泣いて、私は貴方が好きだと言って縋ればいいのに。そうすれば貴方は私のものになってくれるのに。優しいから。たとえ私を好きじゃなくても。他に好きな人がいたとしても。貴方は私のものになってくれるのに。簡単なことなのに、

「えー、あはは」

それでも私は尚笑い続ける。涙は瞳の奥でスタンバっているけれど。私はそれをぎゅっと堪えた。好きな人の幸せなんてこれっぽっちも願えない筈なのにね、







あなた好きだから
(なんていうか、矛盾してるよね)







110924



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